第8章312話:指揮権

私は告げた。


「頭を上げてください、姉上。もともとそのつもりです」


「え?」


「私たちがブランジェ家に帰ってきた理由……それは、姉上と一緒に領軍戦争を戦うためです」


「……!」


ローラがわずかに目を見開く。


驚きもあるが、そう申し出てくることは、想定の一つとしてはあった……という感じだろう。


しかし、次にアリスティが語る言葉を、姉上はきっと想定していない。


「私は、もちろん領軍戦争に参加させていただきたいと思います……ただ、」


とアリスティは前置きしてから、告げた。


「エリーヌお嬢様を、ブランジェ軍の総司令官そうしれいかんとしてお認めいただきたい」


「なっ……!?」


アリスティの言葉に、ローラが驚愕する。


アリスティはさらに告げた。


「エリーヌお嬢様に、ブランジェ軍の総指揮権そうしきけん委譲いじょうすること――――これを認めていただけなければ、私は戦争に参加いたしません」


「……」


「もちろん、お飾りの指揮権ではなく、真に司令官として認めていただき、エリーヌお嬢様の命令には従っていただきます。……どうされますか?」


アリスティが返答を迫った。


ローラは困惑した。


だが、ややあって答えた。


「わかった……その条件を飲むわ」


ローラには、そう答えるほかない。


アリスティがいなければ、領軍戦争は必敗だからだ。


「でも……いったい、何が狙いなの? エリーヌが、指揮権を持つなんて……」


とローラが尋ねてくる。


アリスティが答えた。


「ローラお嬢様。信じていただけないかもしれませんが、エリーヌお嬢様は、昔のお嬢様とは違います」


「……というと?」


「今のお嬢様は、この大陸における唯一無二ゆいいつむに。フレッド様にまさるともおとらぬ力をゆうしておいでです」


「ふむ……」


「ですから、お嬢様に任せておけば、領軍戦争は必ず勝利できることでしょう」


アリスティがそのように説明する。


私は肩をすくめた。


「……兄上を引き合いに出されると、ちょっと自信はないけどね」


私とフレッドの強さは、方向性が違う。


フレッドは戦争向せんそうむきの才能だ。


大軍を動かすことにおいて、フレッドのみぎものはいない。


しかし。


私は私で、大軍を相手にする力がある。


だから、私は告げる。


「私が指揮をる以上……敗北はない、と断言しましょう」


「……」


ローラが静かに私を見つめる。


「何か秘策ひさくがある……ということね?」


「はい」


「わかったわ。エリーヌ……あなたを信じましょう。どのみち私では、どうすることもできない戦争だからね」


とローラは苦笑した。





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