第8章307話:ローラ視点

<ローラの視点>


―――ブランジェ家。


屋敷の執務室しつむしつ


「はぁ……」


ローラはため息をついた。


彼女は、少しやつれていた。


領軍戦争りょうぐんせんそう開戦かいせんに向けての対応に追われていたからである。


(結局、戦争を回避できなかったわね……)


とローラは内心、歯噛はがみする。


ディリスとフレッドがいなくなったことで、ブランジェ家の権力はいちじるしく低下するとは思っていた。


領軍戦争を仕掛けられる可能性も考えていた。


しかしローラは、領軍戦争を起こさないために、あちこちの貴族に根回しをしていた。


領軍戦争には貴族による多数の署名が必要だ。


その署名にはサインをしないようにと、ローラは貴族たちに圧力をかけ、加えて、カネをばらまき懐柔かいじゅうしようとした。


ところが、結果は、コレだ。


(多くの貴族に裏切られた……もうブランジェ家に未来はないと思われたのね)


フレッドがいない。


アリスティもいない。


ディリスもいない。


しかもブランジェ家は、かつてのフレッドのおこないのせいで、あちこちから嫌われている。


周囲の貴族から見れば、今のブランジェ家の味方をする価値はない……ということなのだろう。


(状況は最悪だわ)


領軍戦争が決定してしまったことは仕方ない。


だから開戦に向けて、できるだけのことをやろうとした。


ところが、あらゆることが上手くいかなかった。


武器を集めようとしても、武器商人ぶきしょうにんはロクに武器を売ってくれなかった。


傭兵や冒険者も、明らかに劣勢のブランジェ家の味方をしてくれない。


そう――――


誰も、敗北濃厚はいぼくのうこうであるブランジェ家につきたくはないのだ。


ブランジェ家の味方だと思われたら、敗戦はいせん後、危うい立場になるからである。


もし戦争に参加するとしても、ブロストン侯爵こうしゃくがわにつく。


それが多くの人間の共通見解きょうつうけんかいだった。


(せめてアリスティが帰ってきてくれたら……)


ローラが最も期待していたのは、アリスティを呼び戻すことだが……


結局、エリーヌやアリスティがどこにいるのかわからず、連絡を取ることができなかった。


「はぁ……」


ローラは再度、ため息をつく。


ローラには、何もかもを投げ捨てて、亡命ぼうめいするという道もあった。


部下にそう提案されたこともある。


しかし。


ローラは貴族として、軍人として、最後まで逃げないことを決めていた。


たとえ負けるとわかっていても、己の生きざまを貫く。


みっともなく生き残ってもしょうがない。


せめて格好よく戦って散ってやろう、とローラは思った。


「いまさら嘆いてもしょうがない。――――そろそろ、戦場に向かわないと」


もうすぐ開戦だ。


ローラは立ち上がる。


と、そのときだった。


慌ただしい様子で、執事が執務室に飛び込んできた。


「た、大変ですローラ様!」


「どうしたの?」


「エリーヌ様が……アリスティ様が、戻って参られました!!」


「……え?」


ローラは驚きに、目を見開いた。

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