第8章305話:決意

リシアが目を細め、言ってくる。


「ローラ様を救いたければ、ランヴェル帝国に来てください。そして領軍戦争りょうぐんせんそうに参加してください」


「……なるほど。そこで私を叩く、というのが、あなたの狙いですか」


「はい」


否定もせず、堂々と肯定するリシア。


ブランジェを叩き潰そうとする領軍戦争。


まず間違いなく、ブランジェ側が劣勢だろう。


放置していれば、ローラは……死ぬ。


リシアが、告げた。


「それでは、伝えたいことは済みましたので、これで失礼します」


「逃げられるとでも?」


私がそう尋ねる。


次の瞬間。


「……!」


アリスティがった。


拳が炸裂する。


しかし。


リシアが避ける。


だが、アリスティの一撃目は誘導。


次に繰り出されるアリスティの二撃目は、かんを駆使したパンチ。


これは避けられない……はず。


「……!?」


しかし、リシアは避けない。


アリスティの拳を、なんと短剣ではじくように防いだ。


普通なら、アリスティの拳は短剣ごとリシアを粉砕するはずなのだが……


なぜかそうならず。


むしろ短剣に、アリスティの拳が弾かれてしまう。


私は驚く。


(なに、いまの防御? アリスティのパンチが封殺ふうさつされるなんて)


有り得ない現象だ。


リシアが解説する。


「ジャストパリィ。それが私の能力です」


ジャストパリィ?


「完璧なタイミングで防御をすれば、相手の攻撃を無効化できる力です。たとえアリスティ様の攻撃でも、ジャストパリィならば防げます」


なんと。


アリスティの攻撃さえも、ジャストタイミングで防げば、ダメージをゼロにできるのか。


「アリスティ様はおつよい。私では決して勝つことはできない。しかし――――アリスティ様も、私をてない」


「……」


「いまは争うつもりはありません」


リシアが言いつつ、短剣をしまった。


そして背を向ける。


「決戦は領軍戦争にて。その日を楽しみにしております」


リシアが去っていく。


あとには静けさだけが残った。


アリスティが報告してくる。


「実は、こっそりリシアさんに威圧をかけていたのですが……通用しませんでした」


「ふむ」


威圧の指輪が通用しなかった……か。


それはつまり。


「リシアさんは、威圧耐性いあつたいせいがある……? いや」


威圧耐性があっても、完全に無効化できるわけじゃない。


だから威圧を受けたら、顔色ぐらい変わるはずだ。


それが全く通用しなかったということは……


「【精神攻撃無効の石】を持っている、と見るべきでしょうね」


と私は推定した。


ジャストパリィに精神攻撃無効か。


なかなか面倒な相手だ。


アリスティは尋ねてくる。


「……それで、お嬢様はどうなさるのですか?」


「……」


「ランヴェル帝国に、お戻りになりますか?」


アリスティの問いに、私はしばし押し黙った。


ややあって、答える。


「そうするしかないでしょうね」


「領軍戦争に参加するということですか?」


「はい」


と私は肯定する。


領軍戦争は、領主同士りょうしゅどうしの争いだから、国家間こっかかんの戦争ほど大規模ではない。


しかし本物の戦争であることに変わりはない。


死の危険がともなう。


さらにリシアが参加してくるということは、おそらく、セラスの残党もいるのだろう。


それだけの敵を相手に勝利をつかみ取らなければならない。


簡単ではない。


でも。


「本当に、姉上が私の冤罪を晴らしてくれたのならば……感謝の一つも述べないまま、わかれるわけにはいきませんから」


姉上が私の味方だというなら、私は姉上を助けたい。


素直にそう思った。


だから私は、戦争への参加を決意するのだった。




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