第8章303話:リズニス王国へ

その日の昼。


さっそくキャンピングカーを走らせる。


目的地はリズニス王国だ。


私は急ぎ足で、キャンピングカーを走らせた。


なぜなら真冬まふゆじゃないと氷竜は現れない。


あんまりのんびり走っていると、シュトラール雪国に戻ったときには、冬が過ぎてしまうと思ったのだ。


だから急いだ。


素早く走らせた。


しかし……


雪が降り積もってキャンピングカーがロクに走れず。


吹雪ふぶきが吹き荒れる日もあった。


ゆえにキャンピングカーで、素早くリズニス王国に飛んで帰るのは、不可能だと理解した。


(これは……今年の氷竜狩ひょうりゅうがりはあきらめるしかないでしょうね)


私はそう結論した。






シュトラール雪国を出て。


クナス森林国、


ルット法国、


シューン王国、


アロン公国などを経る。


ルフシャ砂漠国に入る。


さらにダリューン王国を経て。


リズニス王国に戻ってきた。


もう、そのころには、完全に冬が明けていた。


雪解けの春。


青々あおあおとした空と太陽が、芽吹めぶいた草木を照らしている。


春のやわらかな風が吹きつけるリズニスの大地を、キャンピングカーで走行する。


「やっぱりキャンピングカーは速いですね」


とニナが感心してつぶやいた。


「もうリズニス王国に戻ってくるなんて……」


それに対し、私は肩をすくめる。


「……まあ、これでも予定よりだいぶ遅いですけどね」


本当はもっと早くリズニス王国にたどり着く予定だったが……自動車はやはり、雪の走路には弱いな。








夕方になる。


リズニス王国の街路脇がいろわきの草原。


雑木林ぞうきばやしの近くに、キャンピングカーを駐車した。


ここで車中泊しゃちゅうはくとする。


今日の食事はニナが作る。


私とアリスティは、キャンピングカーの外に出ていた。


「リズニス王国、久しぶりですね」


とアリスティが言ってきた。


私は答える。


「はい。なんだか……帰ってきた、という感じがしますね。シャーロット殿下や、陛下にも、久方ぶりに会ってみたいですね」


「そういえば、屋敷を作る……という話でしたよね。もう完成しているでしょうか」


「完成していると思いますよ」


以前にリズニスに滞在していたときから、もう半年以上が経っている。


屋敷の竣工しゅんこうも完了しているだろう。


「どんな屋敷を用意してくれているのか、楽しみです」


と私はしみじみつぶやいた。


ダルネア公爵に会って、用事を済ませたら、シャーロット殿下のもとにも顔を出そう……


そう思いながら、キャンピングカーへ戻ろうとしたとき。


「……! お嬢様!」


アリスティがピシャリとした声で呼びかけてきた。


「え?」


私は振り向く。


アリスティが鋭く前を見据みすえている。


アリスティの視線の先に立っていたのは、一人の女性。


「お久しぶりです、エリーヌお嬢様」


見覚えがあった。


フレッドが最も信頼を置いていた部下――――


セラスの隊長、リシアである。

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