第8章301話:威圧の実感

「……!!」


瞬間。


視界が、赤黒あかぐろく染まる。


「あ、あ……ッ」


身体が硬直する。


まるで金縛かなしばりにあったかのように。


足がその場に縫いとめられる。


動けない。


心臓の鼓動が早くなり、息が詰まり、呼吸が苦しくなる。


身体がガタガタと震えだすのを押さえられない。


(怖い……)


怖い。


怖い怖い怖い。


怖くてたまらない。


アリスティが、とんでもない怪物に見える。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


息が荒れる。


脂汗あぶらあせがにじみでる。


やがて10秒が経過した。


「はぁ……っ」


ふっ、と。


自分を包み込んでいた重たい圧力が消えたかのようだった。


一気に、心身しんしんが軽くなる。


心臓をわしづかみにしていたような恐怖も、消失していた。


「……いかがでしたか?」


アリスティが聞いてくる。


私は深呼吸をしつつ、答える。


「そうですね……10秒が遠かったです。とても怖くて、震えが止まらない感じで……なんというか、すごい感覚でした」


絶対に勝てない魔物と遭遇したときでも、ここまでの重圧を感じることはなかろう。


文字通り、動けなくなるほどの強力な威圧。


新鮮すぎる感覚だ。


初めて味わう感覚に、私の脳が活性化して、生き生きしていた。


「……お嬢様を見ていると、私も威圧を経験してみたくなりますね」


「うーん。アリスティには無理ですね」


アリスティは私を威圧できるが……


私がアリスティを威圧するのは不可能だ。


格下しか威圧できないという制約があるなら、この大陸でアリスティに威圧を食らわせられるのは、片手で数えられるぐらいしかいないのではなかろうか?


「残念ですが、あきらめるしかなさそうですね」


とアリスティは肩をすくめた。






このあと。


威圧の指輪について、いろいろ検証してみた。


――――まず、どれだけの範囲を威圧できるか?


これは半径100メートル圏内が限界だとわかった。


――――背後にいる相手にも威圧ができるのか?


可能である。


――――本当に【精神攻撃無効の石】で威圧効果を無効化できるのか?


ちゃんと無効化することができた。


ゆえに石を持っていれば、敵対した者が威圧の指輪を所持していても、威圧される危険はないことがわかった。


その他、いろいろな検証を経て、威圧の指輪への理解を深める。


日が暮れるころになって、検証を終了した。

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