第8章298話:威圧

そのとき私は、ふと思いついたことがあってアリスティを呼び止めた。


「あ、ちょっと待ってください」


「なんでしょう?」


「せっかくですし……あの指輪を試してみませんか?」


あの指輪――――


それはルフシャ砂漠国の最後に、褒賞ほうしょうとしてアリスティが受け取った指輪。


【威圧の指輪】である。


まだ一度も実戦で使ったことがない代物しろものだ。


良い機会なので、テストもかねて使ってみたらどうかと提案する。


アリスティは答える。


「……そうですね。私も一度、試してみたいと思っておりました」


そう告げたアリスティは、アイテムバッグから威圧の指輪を取り出した。


指輪を右手の人差し指にセットする。


「使い方はわかりますか?」


と尋ねると、アリスティはうなずいた。


「大丈夫です。魔力を流すだけのようですから」


「そうですか。では―――――」


「いつまでくっちゃべってんだ、オラァッ!!」


と。


そのときバルゴが、気勢きせいを上げて攻め込んでくる。


「まずは腕の一本をもらうぜ!」


走りながら振り上げられるバトルアックス。


しかし。


「――――ッ!?」


バルゴの身体が、突如として制止した。


バトルアックスを振り上げた状態で、ガタガタと震える。


「ひっ……な、なんだ……これ? か、身体が動かねえ……!」


まるで金縛かなしばりにあったかのようだ。


恐怖に染まった顔で、バルゴが動かなくなる。


バトルアックスも地面に取り落とす。


「威圧、成功です」


とアリスティが報告してきた。


なるほど。


威圧の指輪を使うと、こうなるのか。


「バ、バルゴ?」


後ろにいた4人の賊たちが不安げな表情を浮かべた。


アリスティが、彼らにも視線を向け――――


威圧をおこなう。


「!?」


「ひっ!?」


「な!?」


「あ、あぁ……ッ」


4人の賊たちも、恐怖に飲まれた表情を浮かべた。


うち1人は、膝が笑って、その場に座り込んでしまう。


「アリスティ? そのまま威圧を続けてください」


「承知しました」


アリスティが返事をする。


私はぞくたちに近づく。


私が至近距離しきんきょりに接近しているにもかかわらず、賊は動かない。


ただすくめられたように、立ち尽くしたり、座り込んだままだ。


試しに1人の男を蹴り飛ばしてみる。


「ぐっ!?」


呆気なく倒れる。


私はその男を踏みつけ、踏みにじる。


抵抗もしないし反撃もしてこない。


ふむ……。


すごいな。


威圧の指輪のすさまじさに、私は感嘆する。



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