第8章289話:大義名分
「なるほど。相性がいいわけか」
とドラレスク将軍が納得する。
キスフィールは言った。
「逆にイグーニドラシェルとかは、相性が良くないわね。あいつの馬鹿げた超範囲魔法からは、さすがに逃げられないもの」
六傑であるイグーニドラシェルも、透明化したキスフィールの姿を目視できないが……
適当に超範囲魔法を撃ちまくっていれば、いずれキスフィールにも命中する。
しかもイグーニドラシェルは魔力が高いので、一発でも当てられたら、ひとたまりもない。
このためイグーニドラシェルは、第三席――――キスフィールより格上に位置づけられている。
「だからアリスティは第五席、あたしは第四席、イグーニドラシェルは第三席になってるわけね」
「……席次があるのか。初耳だな」
とドラレスク将軍は関心を示す。
彼は尋ねる。
「つまり六傑には序列が存在する?」
「ええ。第一席から、第六席まであるわよ。それぞれに個性があって、その優劣で序列が決まっているのよ」
六傑はいずれもチートだが、それぞれコンセプトがある。
第六席のミフォルトは【召喚王】――――大陸最強の召喚士。
第五席のアリスティは【歩く攻城兵器】――――大陸最強のファイター。
第四席のキスフィールは【
第三席のイグーニドラシェルは【大天魔】――――超範囲魔法の使い手。
第二席のフレッドは【軍神】――――大陸最強の知性。
どの六傑も、たった一人で、国すら滅ぼせる実力の持ち主である。
「ふむ……アリスティが第五席だったか? ではフレッドは何番目だったのだ?」
「フレッドは第二席ね」
「……ヤツでも、序列2位か。1位はどんなやつなのだ?」
「……1位は【到達者】よ」
「到達者?」
「……」
キスフィールは、詳しく語らない。
ただ、静かに告げる。
「……それ以上は、知らないほうがいいわ」
その物静かで
キスフィールは空気を切り替えるように告げる。
「今日は、そんな話をしに来たんじゃないでしょう? 問題は、アリスティの件」
「……そうだな。六傑の第一席が、どのような
とブロストン侯爵も、空気を読んで同調する。
ドラレスク将軍がひとつ咳払いをしてから言った。
「では、話を戻そう……ブロストン侯爵」
「なにかね?」
「キスフィール殿のような逸材が味方についてくれたのならば、こんな酒場で密談などせず、いますぐにでもローラを暗殺して終わらせれば良いのではないか?」
「良い質問だ」
とブロストン侯爵が微笑んでから、答えた。
「ローラを暗殺すれば、確かに事実上、ブランジェ体制は崩壊する。だが――――それは正義ではない」
「ふむ?」
「密かに殺すのは卑怯な殺人だ。私がしたいのは、殺人ではない。私が成したいのは、大義名分を
「ブランジェ家が悪……か」
「フレッドのおかげで、ブランジェ家に憎しみを持つ者も多いからな。滅ぼすべき悪だと主張すれば、賛成する者も多いだろう」
ゆえに暗殺などという後ろめたいことをするのではなく。
堂々と宣戦布告をして、ローラを叩きのめす。
それが正義であると、ブロストン侯爵は語った。
するとキスフィールが笑って言った。
「貴族ってバカよね。大義名分だとか断罪だとか、そういうくだらない言葉遊びにこだわってさ。結局やることは、人殺しなのに」
「貴族には貴族の都合というものがあるのだよ、お嬢さん」
とブロストン侯爵は述べた。
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