第6章275話:錬金の依頼

そして。


その翌日の朝。


宿を訪れた者がいた。


ミフォルトである。


私はミフォルトを招き入れることにした。


宿は9階建ての最上階で、部屋はスイートホテルのように綺麗な一室である。


アリスティとニナも、同じ部屋にいた。


部屋のテーブルにミフォルトを座らせて、対面に私が座った。


ミフォルトは言った。


「用件は、聖泉水について……だ」


私はうなずく。


「はい。いま、用意しますね」


「ああ。それと、もう一つ頼みたいことがある」


「頼み、ですか」


ミフォルトさんがうなずく。


「実は、僕が欲しているのは、聖泉水じゃないんだ」


「……?」


「聖泉水を使って、錬成できるアイテム……【生命せいめい秘薬ひやく】。それが、僕が本当に求めているものだ」


生命の秘薬。


聞いたことがある。


とても助からない重傷や難病を治癒してくれる秘伝の薬。


市場に出回ることのないSランク級のアイテムである。


ミフォルトが事情を説明する。


「僕には妹がいる。その妹は、重い病をわずらっていて、治すことができない。だから、秘薬が必要なんだ」


なるほどね。


聖泉水そのものではなく。


聖泉水を使って作れる薬が欲しいわけか。


「それで、」


ミフォルトさんが言った。


「君に【生命の秘薬】の錬成を頼めないだろうか?」


「……え?」


と、私は首をかしげた。


「君は優秀な錬金魔導師なのだろう? 僕は実際に君の錬成を見たことはないから、なんとも判断しがたいが……錬金魔法部第一席メリスバトンに推薦されるほどの腕前ならば、信用に足る。君に【生命の秘薬】の錬成を依頼したい」


「う、うーん」


と、私は悩んだ。


そして言った。


「作ることは構わないのですが、錬成のレシピがわかりません。作り方がわからなければ、さすがに」


「それなら大丈夫だ。もう作り方はわかっている」


「そうなんですか?」


「ああ」


と、ミフォルトさんはうなずく。


アイテムバッグから、一枚の紙を取り出した。


「これが【生命の秘薬】に必要な材料、それから、作り方のレシピだ」


私は紙を受け取る。


なるほど。


聖泉水も含め、なかなか入手難易度の高そうな名前が並んでいる。


ミフォルトさんは言う。


「実は聖泉水以外の素材は、既に揃っている」


「え? そうなんです?」


「うむ。だから、聖泉水が手に入ったなら、あとは秘薬を作れるほどの、凄腕の錬金魔導師を探すだけだった」


ふむふむ。


「頼む。礼ならなんでもする。【生命の秘薬】を作ってはもらえないだろうか?」


と、テーブルの上で頭を伏せるミフォルトさん。

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