第6章271話:召喚陣の分析

ミフォルトさんはさらに告げる。


「ビルギンス。お前が僕を雇った理由は、とある召喚陣についての意見が欲しいということだったな? その召喚陣とは、コレのことだったわけだ」


なるほど。


ミフォルトさんがビルギンスのもとにいたのは、聖泉水のありかを知るためだったが……


その逆、ビルギンスがなぜミフォルトさんを雇ったのか、今まで私は知らなかった。


魔王召喚についてのアドバイスを求めるため……だったのか。


「ミフォルト殿、魔王はもう召喚されてしまったのか?」


と、ヒニカさんが険しい声音で尋ねた。


ミフォルトさんが答える。


「……いや、この召喚陣は起動していない」


「そうなのか」


「ああ。この召喚陣の理論は間違っているからな」


ミフォルトさんの回答に、私はおどろく。


私は尋ねた。


「パッと見ただけでわかるんですか?」


「まあ、理論的矛盾を見抜くのはそこまで難しくはない」


するとアリスティが尋ねる。


「ミフォルトはもしかして、魔王を召喚できたりするんですか?」


その問いに、ミフォルトさんは首を横に振った。


「いや、無理だ」


「無理なのに、召喚陣の矛盾がわかるのか?」


と、聞いたのはヒニカさんである。


ミフォルトさんが答える。


「自分で完成した召喚陣を作れなくても、理論が間違ってることぐらいわかる。上手く説明するのは難しいが、そういうことだ」


ふむ。


アレだね。


数学の証明問題は解けなくても、途中式の矛盾ぐらいは指摘できる……みたいな感じか。


ヒニカさんが言った。


「だが、召喚陣の理論が合っていようといまいと、ビルギンス侯爵が屋敷の地下で、魔王召喚をおこなおうとしていたことは事実。これは死罪に値する重罪だ」


死罪、という言葉を聞いて、ビルギンスが息をのんだ。


さらにヒニカさんは言う。


「しかも、彼には大量殺人の嫌疑もかけられている」


「……なに?」


「なんでも魔王召喚の儀式の材料として、人間を使っていたという話だ」


「それは、違う!」


と、ビルギンスは否定した。


ミフォルトさんは召喚陣の前で膝をついて、陣を凝視する。


「……ふむ。この召喚陣には、人間を材料にするような式は組み込まれていないが」


「そんなことまでわかるのか?」


と、ヒニカさんが聞いた。


「ああ。まあ、どんな材料を想定していたかはだいたい……な。殺人があったかどうかはわからないが、少なくとも魔王召喚の材料に人間を使った、というのは、誤情報だろう」


誤情報というか……


私がでっちあげたウソだからね!

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