第6章263話:ミフォルトの意思

「ぼ、僕は帰る! アリスティみたいなバケモノと戦ったら、命がいくつあっても足りないからな!」


と、ミフォルトは言い捨て、立ち去ろうとする。


そのときビルギンスが呼び止めるように言った。


「待て、逃げるな!」


「いいや、逃げる!」


「聖泉水のありかがわからなくなってもいいのか!?」


と、ビルギンスが叫ぶと。


ミフォルトの足が止まった。


そのミフォルトの迷いを、目ざとく察したビルギンスは、にやりと笑って尋ねる。


「妹の命を助けるには、聖泉水が要るのだろう? ここで情報を得なくてもいいのか?」


ビルギンスの言葉に、ミフォルトは拳を握り締めた。


ほーん。


そういう事情ね。


なるほどなるほど。


うん、たぶんだけどさ、ミフォルトさんは良い人だね。


よし。


決めた。


とりあえずミフォルトさんと敵対するのはナシだ。


悪い人じゃなさそうだし、六傑とは戦いたくないしね。


私は尋ねた。


「あの? 聖泉水が欲しいんですか?」


ミフォルトの目がこちらを向いた。


私は告げる。


「私、持ってますよ? 聖泉水」


「!!?」


ミフォルトとビルギンスの目が見開かれる。


ミフォルトは聞いてきた。


「聖泉水を……持っている? そう言ったのか!?」


「はい」


「譲ってくれ!!」


と、ミフォルトは早足で近づいてきた。


アリスティが私の前に立つ。


「お嬢様に近づかないでもらえますか」


と、ミフォルトに言い放つ。


ミフォルトは慌てて立ち止まった。


「すまない! 攻撃の意思はない! 交渉をさせてくれ! どうしても聖泉水が必要なんだ!」


そう懇願してくるミフォルト。


私は答える。


「別にいいですよ。聖泉水、たくさん保管してあるので、少しぐらいプレゼントしてあげてもいいです」


「な!? 本当か?」


ミフォルトが目を見開く。


私は尋ねた。


「はい。そのかわり、ビルギンスと手を切ってくれますか?」


「ああ、切る!」


「なっ!!?」


即答したミフォルト。


そして驚愕に目を見開くビルギンス。


ビルギンスはキレた。


「ふ、ふざけるな!! ミフォルト、貴様、私を裏切るのか!?」


「ああ、裏切るさ!」


と、ミフォルトはハッキリ宣言した。


「ビルギンス。僕は君を信用できない人間だと思っている」


「なんだと!?」


「一応、僕は、六傑の末席を汚している身ではあるからね、それなりに人生経験はあるんだ。だから、良からぬ人間を見分ける嗅覚ぐらいはある。初めて会ったときから思っていたことだが、君からは嫌な気配がビンビンする」


「そ、そんな不確かな直感で、私を疑うのか!?」


「ああ。僕は自分の直感それを、不確かだとは思っていないからね」


と、ミフォルトはビルギンスを険しい顔で見つめる。


「まあそれでも、妹を救うためだったら、君に協力するつもりではあったさ。しかし……聖泉水が手に入るなら、もう君に手を貸す必要はない」


さらにミフォルトは続けた。


「アリスティ・フレアローズは恐ろしい女だが、少なくとも悪人ではないと知っている。だから僕は、彼女たちの側につかせてもらおう」


と、ビルギンスを切り捨てる宣言を、はっきりおこなうミフォルト。


ビルギンスは青ざめ、焦ったように冷や汗をかいていた。






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