第6章262話:召喚術

「……」


ミフォルトは右手に巻いた包帯を解いた。


その手を天に掲げる。


すると。


彼の横の空間。地面のうえに、巨大な魔法陣があらわれる。


その魔法陣から出現するのは、一匹のオーガ。


強力な魔力を宿した紫色の体表を持つ、ギガントオーガであった。


身長は250cmほどもある巨体。


着ている衣服は腰巻のみ。


全身の発達した筋肉を、見せ付けている。


(召喚士……)


魔物を召喚し、使役する魔導師。


召喚士サモナー


それがミフォルトの適性職なのだろう。


しかもギガントオーガの召喚とは……


極めて腕の立つ召喚士であることは間違いない。


「くくく、愚かな侵入者どもめ!」


と、ビルギンス侯爵は私たちを向いて笑った。


そしてミフォルトを盛大に紹介する。


「ここにいるミフォルトは、【選ばれし六傑】の一人……召喚王、ミフォルト・バルセードだ!」


……なんだって?


選ばれし六傑?


私は唖然とする。


ビルギンス侯爵は高笑いした。


「ははははは! 言葉もないようだな! 貴様らが、いったい誰に刃向かおうとしたか、ようやく理解できたか!?」


「……【選ばれし六傑】なんて言葉は、一部の者しか知らないだろ」


と、ミフォルトがツッコミを入れた。


さらにミフォルトは告げる。


「あと、言っておくがビルギンス。僕は彼らを殺すつもりはない」


「なっ!?」


「制圧するだけだ。殺人は好きじゃないからな」


と、ミフォルトが宣告する。


なんだろう。


この人、意外に悪い人ではないんじゃないか?


ビルギンスに雇われているか、なんらかの理由で、この屋敷に滞在しているだけっぽい?


ミフォルトが私たちに言ってくる。


「悪いな。君たちに恨みはないが、僕にも目的がある。殺さないように注意するが、多少は痛い思いをするかもしれ―――――」


「あ、思い出しました!」


と、そのときミフォルトの言葉をさえぎるように。


アリスティが声をあげた。


彼女は告げる。


「ミフォルトじゃないですか! お久しぶりですね」


えっと……


やっぱり知り合いな感じなのか。


「だ、誰だ君は?」


と、リズニスの言語に切り替えて、ミフォルトが尋ねた。


「お忘れですか? アリスティ・フレアローズです」


アリスティがそう答える。


するとミフォルトは、目を見開き……ビビり倒した。


「ア、アリ、アリスティだとぉ……ッ!!???」


ミフォルトは口をあんぐりと開けながら、震えている。


ビルギンスが怒鳴った。


「どうしたミフォルト! 早く戦え!」


するとミフォルトが、ビルギンスに対してキレた。


「バ、バカかお前は!? いったいなんてヤツと戦わせようとしているんだ!? 喧嘩を売る相手ぐらい選べよぉ!」


「な、ど、どういうことだ!? そのアリスティという女が、なんだというんだね?」


「アリスティは、【選ばれし六傑】だよ!!」


「!!?」


ビルギンスは驚愕する。


ミフォルトはさらに続ける。


「しかも僕より序列が上だぞ! 僕が六傑の序列6位で、アリスティが序列5位! そんなやつに勝てるわけないだろ!?」


その言葉に、ビルギンスは困惑しながら言った。


「い、いや、しかし……そうだ! ニセモノの可能性もあるだろう!? こんなところに、六傑が二人も揃うわけがない!」


「む、そ、そうかもしれないが……」


と、慌てていたミフォルトが少し静まる。


私は、アリスティに尋ねた。


「アリスティ、ミフォルトさんと最後に会ったのはいつですか?」


「え? えーと、一番最後に会ったのは、レグラン王国の内戦のときだったと思いますが」


アリスティが答える。


その言葉を聞いて、ミフォルトが叫んだ。


「ほほほ本物だ! 本物のアリスティじゃないか!」


どうやらミフォルトの記憶にもあるらしい。


ミフォルトは、ふたたびガタガタと震え始める。





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