第6章261話:巻き髪の男

どうやら、ビルギンスの近くに立つ男は、ミフォルトという名前らしい。


少し鈍い灰色をした巻き髪。


黄色い瞳。


童顔っぽい顔立ちだが……


どこか人生を長く生き、老成したかのようなかげがある。


ボロボロの黒っぽいマントに身を包んでおり、右手には包帯を巻いていた。


あのミフォルトという男もアサシンなのか?


警戒したほうがいいだろう。


「仕事?」


と、ミフォルトは聞き返す。


ビルギンスはうなずいた。


「ああ! ほら! そこにいる連中だ、そいつらを排除しろ!」


と、追いかけてきた私たちを、ビルギンスは指差して言った。


ミフォルトは問い返す。


「お前の客じゃないのか?」


侯爵であるビルギンスを「お前」呼ばわりしている。


そう呼んでも許される地位の人間なのだろう。


ビルギンスは答えた。


「客ではない! こやつらは侵入者だ!」


「侵入者……? そういえばさっき、何か飛んできたな。屋敷の2階のあたりに」


飛んできたのはルキウスだろう。


アリスティにぶっ飛ばされたルキウスの姿を、ミフォルトは見たのだ。


ビルギンスは言う。


「それもこいつらの仕業だ! 細かいことを説明している暇はない! こやつらと戦え、ミフォルト!」


と、必死の様子でビルギンスは告げる。


ミフォルトは目を細める。


「ん、んん……見覚えのあるやつがいるな。い、いや、まさかな」


と、ミフォルトはちょっと焦った様子だった。


ミフォルトの目は、アリスティを見つめている。


もしかして彼とアリスティは、知り合いだろうか?


ミフォルトは、ビルギンスに言った。


「……僕は武力をウリにはしていない。だから戦いは、拒否する」


「なっ……お、お前なら、誰が相手でも倒せるだろ!?」


「そうだな。だが、必要なとき以外は戦わないようにしている。僕は彼らに恨みはないし、戦う気はない」


と、はっきり断っていた。


うーん?


ミフォルトは、ビルギンスの部下ではないのか?


二人の関係性がいまいちわからなくて、私は困惑する。


と、そのとき。


ビルギンスは、言った。


「もし奴らを倒してくれたら、聖泉水せいせんすいのありかを教えてやる!」


「……!」


ビルギンスの言葉に、ミフォルトの顔つきが変わった。


……えっと。


聖泉水?


確かにそういったよね。


ミフォルトは聖泉水を探しているのだろうか。


「その言葉に、二言はないな?」


と、ミフォルトは尋ねた。


ビルギンスは答えた。


「ああ、ない!」


「わかった。なら、しょうがないか」


ミフォルトはため息をつきながら、了承した。


ミフォルトの目がこちらを見つめる。


その目には、静かではあるが、戦意が宿っている。


なんかよくわからないけど、どうやら、やる気のようだ。

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