第6章260話:粉砕

すかさずアリスティが、拳を放つ。


しかし、さすがルキウスは、凄腕の用心棒。


アリスティの、決して遅いわけではないパンチを、身をそらしてかわす。


だが――――


今のアリスティのパンチは、誘導。


【当て勘】を炸裂させるための布石である。


「ふっ!!」


「……!?」


本命の二撃目―――すくい上げるような下段のパンチを、アリスティは放つ。


その拳が、回避せんとするルキウスを追いかけていく。


決して逃れることができない、絶対必中のパンチ。


そのパンチがルキウスの腹に直撃した。


「ごッ!!?」


息がつぶれたような声を上げて、ルキウスが吹っ飛ぶ。


あまりに驚異的な吹っ飛び方。


空中をホームランのように飛んでいき、門を越え、庭園を越え……


100メートルぐらい先にあった領主の居館、その二階の壁に、ルキウスは激突した。


「ル、ルキウス!!?」


ビルギンスは信じられないような顔で、ルキウスが飛んでいったほうを振り返っていた。


(あれは……死んだね)


と、私はのんきに思う。


ヒニカさんや、バネオンさん、ルーシーさんなどは、アリスティの攻撃力の高さを見て、絶句していた。


「や、やべえっすね……」


と、バネオンさんがビビりちらしている。


ヒニカさんも呆然とつぶやく。


「人間業じゃないな……相手がただの雑魚ならともかく……」


ルキウスは明らかに強者。


低級の戦士と違い、防御結界や身体強化魔法も見事なものだった。


しかしアリスティは、そんなルキウスの防御力など意にも介さず、全て粉砕して吹っ飛ばした。


アリスティが突き抜けたファイターであると、誰の目にも明らかだったろう。


「こ、こんな、化け物がいるとは……」


と、ビルギンス侯爵は、怯えるような目でアリスティを見つめていた。


さすがにビルギンスも、戦意が失せたかな……などと思っていると。


「だ、だが、まだだ! これで勝ったと思うなよ!」


と、ビルギンスが言い放ってくる。


どうやら戦意喪失はしていないようだ。


まだ切り札があるのか?


そう思っていると。


「……ッ!」


ビルギンスが突然、きびすを返して走り出す。


脱兎のごとく逃げ出した!


庭園に入り、屋敷のほうへ走っていく。


「追いかけましょう!」


と、すかさず私は言った。


「あ、ああ……」


と、ヒニカさんが困惑しつつ同意する。


「あの、死体の回収はしなくてもいいんですか?」


と、ニナが言ってきた。


おっと、忘れるところだったね。


外に出したままのモドルドの死体は、アイテムバッグへ戻しておく。


「もう帰りたい……」


途中、ルーシーさんがぽつりこぼしていたが、私は無視した。







門の中に入り、庭園に入る。


屋敷の前に広がった庭園。


ビルギンスを追いかけるように駆け足で庭園を進んでいく。


居館から少し離れたところで、ビルギンスを発見する。


ビルギンスの隣に、誰か立っている。


「おい、ミフォルト! 仕事だ!」


と、ビルギンスが叫んだ。

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