第6章254話:称賛
ヒニカさんが言う。
「……十分、ユルファント語が流暢だと思うがな」
「恐縮です」
と、私は短く答えた。
ヒニカさんが、今度はアリスティを目を向け、尋ねてくる。
「後ろの二人は?」
「私のツレです。アリスティとニナといいます。二人は、ユルファント語が全くわかりませんので、ご理解ください」
「そうか」
と、ヒニカさんはあいづちを打つ。
ヒニカさんが、死体に目を戻しながら言った。
「とにかく事情はわかった。これらは、ビルギンス侯爵の悪事を示す、極めて重大な証拠だ。報告、感謝する」
ルーシーさんが尋ねた。
「侯爵を逮捕できそうですか?」
「できる。……実は、ビルギンス侯爵の悪い噂は、そこかしこに存在している。だが、なかなか尻尾が掴めなかった。しかし、お前たちの告発のおかげで、ようやく調査ができそうだ」
と、ヒニカさんが満足げに笑った。
どうやら本当に、ヒニカさんは、ビルギンスの買収を受けていないようだ。
「今から侯爵邸の家宅捜索をおこなう。令状は、すぐに作成しよう」
ルーシーさんが慌てて聞いた。
「い、今からですか!? で、でも偉い人の家にいくなら、アポを取ったりするものじゃないんですか?」
ヒニカさんが肩をすくめて答えた。
「何を言っている。家宅捜索の前にアポイントを取ったりしたら、証拠を隠されるかもしれないだろう? こういうのは抜き打ちだから意味があるのだ」
「あ、そ、そうですねっ」
と、ルーシーさんが言った。
ヒニカさんが尋ねてくる。
「お前たちはどうする? 家宅捜索についてくるなら、証人として認めるが……侯爵に目をつけられるかもしれん。嫌なら、構わないが」
ルーシーさんがそのとき、ちらりと私を見てきた。
私は『ついていきたいと言え』というメッセージを込めて、一つ、うなずく。
ルーシーさんがビクっとしてから、諦めたように告げた。
「つ、ついていきたい……です」
「お、俺も、同行するっす」
と、バネオンさんも言った。
「……そうか」
と、ヒニカさんが応じた。
そして、笑って告げる。
「お前たちのような、正義ある告発者には感謝せねばならんな。この街の衛兵は腐っていると思っていたが、見直したぞ!」
「あ、あはは……」
「恐縮っす……」
と、二人が答えた。
バネオンさんとルーシーさんは、私に脅されているだけだ。
正義に基づいて告発したわけではない。
だからヒニカさんの賞賛を、二人は、ばつが悪そうな顔で聞いていた。
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