第6章253話:ヒニカへの報告

ルーシーさんが言う。


「実は、ビルギンス侯爵は、その、地下で魔王召喚の儀式をやっているらしいのです」


「……なんだと?」


少し驚きを含んだ声で、ヒニカさんが声を漏らす。


ルーシーさんが報告を続ける。


「そ、それで、儀式のための材料として、人の死体を集めていて……そのために、大量殺人をおこなっているんです」


もちろん、これはウソの報告だ。


役人に対する虚偽の告発。


もう後戻りはできない。


ここまできたらビルギンスを潰すしかない。


ヒニカさんが尋ねる。


「それは……噂話か? 悪いが、噂であれば、真面目に取り合うことはできないぞ」


「い、いいえ! 噂ではなく、証拠があるのです!」


「何?」


「こ、こちらなのですが」


ルーシーさんが、アイテムバッグから、モドルドたちの死体を取り出した。


死臭と血臭が立ちこめる。


さすがに、半信半疑だったヒニカさんも目を見開いた。


「私たちは、ビルギンス侯爵の部下だと名乗る人たちに、襲われて……モドルド隊長たちが、殺されて」


「……なんと」


「わ、私たちも、殺されそうになったんですが、ちょうどそのとき、こちらのエリーヌさんたちが通りかかって……助けていただいたんです」


ルーシーさんが、私たちのことを紹介する。


ヒニカさんは、私たちを見つめた。


それから、ふたたび死体に目を戻した。


「その侯爵の部下たちはどうした?」


「……逃げられました」


「そうか」


ヒニカさんは少し残念そうにつぶやいた。


ルーシーさんが付け加えた。


「ち、ちなみに、エリーヌさんたちは、そのとき、侯爵の手下たちに、大事なアイテムバッグを奪われてしまい……できれば取り返したいそうです」


私は領主邸にお邪魔したいと思っている。


だからアイテムバッグを奪われ、取り返しに行くことにした。


もちろん実際は、奪われてなどいない。


あくまで私が考えた設定である。


「なるほど。だから、わざわざ領都までやってきたのか。エリーヌとは、お前のことか?」


と、ヒニカさんが水を向けてきた。


私はうなずいた。


「はい」


「お前は商人なのか?」


「いいえ、観光者です。他国から来ました。実は、私はルフシャ砂漠国の言葉が不自由です。なので、受け応えがうまくいかないことがあるかもしれませんが、ご容赦ください」


と、私は言っておいた。


今後、面倒な質問をされたときは、言語がわからないフリをして、しらばっくれようと思ったからである。

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