第6章226話:最強のファイター

なぜアリスティが、大陸最強に名を連ねることができているのか。


単に、攻撃力が最強というだけで、【六傑】の名をほしいままにすることはできない。


アリスティの攻撃は――――当たるのだ。


「……!!」


アリスティが右拳みぎこぶしを振りぬく。


それを、やはりサンドワーウルフが避ける。


続いてアリスティは左拳ひだりこぶしを振りぬく。


いわゆるボクシングのワン・ツーである。


しかし、ここでアリスティの攻撃が異様な軌道を描いた。


身体を右斜め前に移動させながら、パンチを放ったのだ。


その拳の先には誰もいない。


まるで虚空に拳を打つような不自然な動き。


ところが。


まさに、アリスティが拳を放った位置に、サンドワーウルフがやってきて、パンチが直撃した。


見事、アリスティのパンチがサンドワーウルフの胸部きょうぶを打ち……


サンドワーウルフを30メートル以上は吹っ飛ばして、昏倒こんとうさせる。


「なっ……!?」


ヴァルリーさんが驚愕する。


「相変わらず威力もとんでもないが……それより、なんだ今の動きは? 敵が動くよりも先に拳を放ったのか?」


「まあ、そういうふうに見えますよね。でも、未来予知とかではないですよ」


と、私は説明した。


アリスティの攻撃は、まさに敵の動きを予測したうえで、敵がやってくるポイントにパンチを放ったように見える。


まるで先回りしてパンチを打つような、異様な動きだ。


だが、これは未来予知ではない。


アリスティに与えられたもう一つの才能――――【かん】である。


【当て勘】とは、動いている対象に攻撃を当てる能力のことをいう。


たとえば格闘技では激しく攻防する中で、


ここだ!


……と思った場所にパンチを放ち、クリティカルヒットを決めるときがある。


そういう、打撃のタイミングを図る上手さを【当て勘】といい、近接ファイトでは極めて重要な能力として認識されている。


そして、アリスティはまさに驚異的な【当て勘】を持つファイターである。


アリスティの当て勘のすさまじさは、まさしく未来予知かと疑いたくなるほど、ジャストポイントに拳を打つ。


敵が避けた先――――


コンマ数秒後にやってくる位置に、アリスティが拳を放つ。


すると敵は吸い寄せられるように、アリスティのパンチの直撃を食らう。


そのさまは、第三者の視点からは、


まるで『アリスティの拳に、敵が自分から当たりにいってる』ようにすら見える。


――――もしもアリスティの【当て勘】が発動したときは、絶対必中。


まあ全てのパンチに【当て勘】が発動するわけではないのだが、だいたい3、4回に1回ぐらいの割合で発動する。


それはつまり、3、4回に1回は、必ず決まる即死パンチが飛んでくるわけで……


戦っている相手からすると理不尽でしかない。


「ッ!!」


アリスティのアッパーが、もう一匹のサンドワーウルフに炸裂する。


下から跳ね上げるパンチを食らったサンドワーウルフが、上空40メートルほど打ち上げられ……


やがて重力にしたがって落下し、地面に叩きつけられた。


当然、死んでいる。


討伐完了である。

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