第5章189話:降りる算段


クレアさんは尋ねてくる。


「ねえ、だったら、頼みたいことがあるんだけど……いいかしら?」


私は首をかしげる。


「なんでしょう?」


「私、この崖の下に降りて、滝つぼにいきたいの。あなたの錬金魔法で、崖を下りるための道具を作れないかしら?」


「え……」


「もちろん、頼みを聞いてくれたら、謝礼をさせてもらうわよ。できれば、下りてから昇る道具もお願いしたいんだけど……どうかしら?」


クレアさんも、崖下におりたいのか。


私たちと同じで、霊水……もとい、聖泉水が目当てかな。


あるいは、ニリャスの最深部たる滝つぼを肌で感じたいだけかもしれないが。


いずれにせよ、私たちも降りる予定だったので、断る理由はない。


「作れなくはないです。が……原始的な道具になりますけどね」


私はそう言った。


クレアさんは聞いてくる。


「それってつまり?」


「ロープ、ですね」


「ロープだと、降りるのはいいけど、昇るのは難しくないかしら?」


「昇るにあたっては、私に、とっておきのアイディアがあります」


私がそう答えると、クレアさんは首をかしげる。


「アイディア?」


「はい。まあ、言っても信じてもらえないような代物なので、そのアイディアについては、滝つぼについてから披露しますよ」


「う、うーん……なんだか不安ね。そのアイディアというのが通用しないことも有り得るのよね?」


「無いとは言いませんが、まあ大丈夫です」


私は明言する。


クレアさんは不安そうな顔をした。


彼女は、アリスティたちに水を向けた。


「あなたたちも、滝つぼに行くのよね? 今の話について、どう思う?」


問われて、アリスティが言った。


「お嬢様が大丈夫だというのであれば、私は信じます」


続いてニナが。


「わ、私はちょっと不安ですけど、私もエリーヌ様を信じたいと思います!」


私は二人の言葉を通訳する。


クレアさんは、二人の返事を聞いて、納得した。


「なるほどね。じゃあ私も、あなたを信じてみるわ。……それにしても"お嬢様"って、あなた、もしかして貴族なの?」


「あー、えっと……元貴族、といった感じですかね」


「ふーん。まあ、あまり詮索するのはやめておくわね。人にはいろいろ事情があるものね」


クレアさんはそれ以上の追及をやめてくれた。


かくして、四人で崖を下りることになる。

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