第5章182話:木彫りのキツネ人形


キャンピングカーに戻ってすぐ、ニナが言った。


「スパーク爆弾……雷を武器にするなんて、そんなことが可能なんですね。やっぱり、エリーヌ様は凄いですね」


尊敬の眼差しを向けてくる。


私は微笑んで、言った。


「雷……ないし、電気は、とても便利な代物で、武器だけでなくあらゆることに使えるんですよ」


「そうなんですか?」


「はい。この冷蔵庫も電気で動いています」


「ええ!?」


「というか、キャンピングカーの車内のほとんどは、電気で動かしていますね」


生活家電は、電気で動かすものがほとんどだからね。


電気を扱うのは、科学文明の基礎だ。


ニナが戸惑ったように聞いてくる。


「で、でも危険じゃないんですか? 雷を生活に使うなんて」


「もちろん危険です。でも、火とかと同じですよ。安全性にきちんと配慮すれば、事故など起こさず使うことが可能なんです」


「そうなんですね」


「はい。私とアリスティも、半年ほどキャンピングカーに乗っていますが、一度も事故はありませんよね?」


アリスティに水を向けると、うなずいた。


「はい。今のところ、怪我をしたり感電したことは、一度もないですね」


「じゃあ、ほんとに便利なものなんですね。電気って!」


ニナが感心したように言った。


私は思う。


(さて、今日の錬金魔法はこのぐらいにしておこうかな……ん)


そのとき、私はふと思い出す。


シャーロット殿下に、贈呈品を貰ったことをだ。


――――木彫りのキツネ人形。


アイテムバッグに放り込んだままである。


リビングに飾っておきたい。


(とは言ったものの、そのまま置くと、たぶんこけますよね)


揺れを極限まで減らしたキャンピングカーとはいえ、全く揺れないわけではない。


人形を置くならば、接着剤のようなもので固定する必要があるだろう。


よし。


私はさっそく錬金魔法をおこなう。


錬成したのは接着テープだ。


何度でも付けたりはがしたりすることが可能な、良質な接着テープ。


これを、木彫りのキツネ人形の底面に貼り付ける。


その状態で、リビングそばの窓辺に置いた。


接着テープが、キツネ人形をぺたりと固定する。


「これでいいでしょう」


私は満足して、微笑んだ。


アリスティが聞いてくる。


「それは、シャーロット殿下から贈られた人形ですか?」


「ええ、そうです」


私は肯定する。


そのとき、私はふと浮かんだ疑問を口にした。


「でも、なんでキツネなんでしょうね?」


すると、アリスティが推測を述べる。


「リズニス初代の王家は、キツネの魔獣を飼っていたという伝承があります。それにちなんでのことではないでしょうか」


「あー、なんか聞いたことありますね、それ」


ブランジェ家の教育の過程で、各国の歴史について学んでいる。


キツネは、リズニスゆかりの獣なのだ。


だから、シャーロット殿下はキツネの人形を贈ってくれたんだね。


私は、納得して微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る