第4章174話:次なる旅へ
<女王視点>
謁見の間。
エリーヌが去っていった後、女王はつぶやく。
「最初は、エリーヌを悪夢のような女かと思った。イグーニドラシェルや、国の重鎮であったルシェスを、死なせた張本人であったからな」
女王は続ける。
「じゃが……終わってみれば、エリーヌのおかげで、悪をただすことができ、リズニス王国はより強く、磐石な国へと生まれ変わった」
「はい。彼女には、感謝しなければなりませんね」
イグーニドラシェルは死んだが、火縄銃と音響兵器を提供してもらえたことで、武力を補填できた。
ルシェス・ヴァンブルの利権は王家が手に入れ、かつ、犯罪を一掃することができた。
終わってみれば、良いことづくめだ。
今では女王もヒューネも、エリーヌには頭が上がらない思いである。
「これからも、よりよい国を目指して、日々尽力せねばならんな。旅をするエリーヌが、何度も帰ってきたくなるような……そんな国づくりをしていこう。おぬしらも、付いてきてくれるな?」
女王が、謁見の間にいる者たちに問いかけた。
答えが返ってくる。
「「「はっ!」」」
臣下の礼を取るもの。
うやうやしく目を閉じる者。
女王の言葉に反対する者はいない。
うわべだけの返事をした者もいない。
女王は、ふっ、と微笑み、今日の政務へといそしみ始めるのだった。
<エリーヌ視点>
屋敷に行き、ニナを拾う。
お世話になった屋敷の皆様にも、クッキーを配っておいた。
別れの挨拶を済ませ、王都の城壁前に出る。
街路沿いの草原に立つ。
キャンピングカーを取り出した。
ニナを先に、キャンピングカーへと乗せる。
見送りに来てくれた殿下と、私たちは向かい合う。
殿下が、言った。
「そうそう。エリーヌさんの屋敷の件ですが」
屋敷……
ここでいう屋敷とは、私に贈呈される屋敷のことだろう。
確か建造するには1年ぐらいかかるとのことだったが。
「着実に建築が進んでおりますわ。来年中には完成するでしょう」
「なるほど、そうですか」
「はい。ですので、来年には一度、必ずリズニス王国に戻ってきてください。新築とともに、あなたをお待ちしておりますわ」
「ええ。必ず」
実際、1年ぐらい旅をしたあとに一度リズニスに戻ろうと考えている。
シャーロット殿下が言った。
「あ……忘れるところでしたわ」
殿下が、アイテムバッグから木彫りの人形を取り出した。
キツネ型の人形である。
とても可愛らしい。
「わたくしからの贈呈品です。実は、これは錬金魔法でこしらえたものですの」
「……! そうなんですか!」
「はい。エリーヌさんの教えのおかげですわ」
彫刻刀ではなく錬金魔法で彫った、ということだろう。
とてもよく出来た代物である。
市販の物品かと思ったほどだ。
シャーロット殿下の錬金魔法が、確実に成長していることを感じられる。
私は、木彫りのキツネ人形を受け取った。
アイテムバッグへ入れつつ、言う。
「ありがとうございます。キャンピングカーのリビングに飾らせていただきます」
「ええ。そうしてくださいまし」
シャーロット殿下は、一拍置いてから、告げた。
「最後になりますが……エリーヌさんには、本当にお世話になりましたわ。この半年間の思い出は、きっと、忘れることはないでしょう」
「私も同じです。リズニスで過ごした日々は、とても濃密で、楽しかったです」
いつわりの言葉ではない。
本当に楽しくて、幸せだった。
一生、
私は告げた。
「殿下。半年間、お世話になりました。また会う日まで、どうかお元気で」
「はい、いずれまたお会いしましょう。……アリスティさんも、今までありがとうございました」
シャーロット殿下に挨拶をされ、アリスティが静かに目を伏せる。
「もったいないお言葉です、殿下。こちらこそ、お世話になりました」
そう言葉を返すアリスティ。
ユレイラさんが言った。
「エリーヌ殿、アリスティ殿。どうかお達者で」
「はい……!」
別れの挨拶を済ませ……
私とアリスティは、キャンピングカーへと乗り込んだ。
ニナがリビングのテーブルに座って、待っていた。
私はニナに言った。
「別れのあいさつが、済みました」
「……はい。あ、私、お茶いれますね!」
と、ニナが気を遣ってテーブルを立ち上がった。
アリスティが先んじるように告げる。
「お茶ならば、私が淹れます」
「あ……じゃあ、手伝います!」
「お願いします」
アリスティとニナがお茶を淹れ始める。
私は、一人、リビングのテーブルに着いた。
ふいに、リズニスでの思い出がよみがえってくる。
湖でスローライフをして。
王女殿下と旅をして。
ダルネア公爵と出会い。
ドラル遺跡を攻略。
ルシェスと戦い――――
王都で、楽しく穏やかな日々を過ごした。
たくさんの記憶が脳裏をよぎる。
本当にいろいろなことがあった。
いろいろな経験をした。
そんな思い出たちが、万感の想いとなって胸にあふれ……
涙がこみ上げてくる。
ひとしきり、私は記憶の海に浸り……
涙をぬぐったところで、アリスティが茶を持ってきた。
「お嬢様。茶の用意ができました」
「はい。ありがとうございます」
アリスティは、お茶のグラスをテーブルの上に置いた。
私は、それをくいっと飲んでから、言った。
「さあ、それでは、出発しましょうか……!」
かくして。
私たちは、リズニス王国での半年に渡る生活を終え――――
新たな旅路に向けて、キャンピングカーを走らせるのだった。
第4章 完
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