第4章172話:贈り物


女王は、惜しむように言った。


「……いよいよ旅立つのか。おぬしには、もっと色々と教えてもらいたいことがあったんじゃがな」


「まあ、また帰ってきますよ。来年には、必ず」


「そうか。なら、楽しみに待っていよう」


「はい。あ、そうそう。贈呈品をお持ちしましたので、お渡しさせてください。まず、女王陛下とシャーロット殿下へ」


私はアイテムバッグから、アクセサリーを取り出した。


「【強毒耐性のアクセサリー】です」


このアクセサリーは、私が錬金魔法で製作したものだ。


王族といえば毒殺のリスクは常に付きまとう。


ゆえに毒を防げるアクセサリーは、有用だろうと思ったのだ。


(本当は、毒無効のアクセサリーを作りたかったけど……作り方がわからなかったんですよね)


毒とは、無限に存在するものだ。


ヒキガエルの毒。


コブラの毒。


ベニテングダケの毒。


クラゲの毒。


そういったあらゆる毒を想定し、完封するなんてことは、現代科学でも不可能である。


ゆえに毒無効のアクセサリーは製作不可能であると結論した。


「もしかしたら、強毒耐性のアクセサリーは既にお持ちかもしれませんが」


「……まあ、実を言うと、一つある」


と、女王は答えた。


やっぱり、あったか。


「しかし、予備として保管しておきたい。ありがたく頂戴しておこう」


「そうですか。では」


私は、強毒耐性のアクセサリーを、陛下とシャーロット殿下へと献上した。


「ありがとうございます。大切に使わせていただきますわ」


これで陛下たちへの贈呈品は終わりである。


続いて……


「ヒューネ様とユレイラさんには、こちらを」


私はアイテムバッグから、ラッピングした箱を二つ取り出した。


まずヒューネ様へ、一つを手渡した。


「ヒューネ様には、特製の炭酸ワインジュースを贈らせていただきます」


私が技術を結集させて創ったスパークリングワインである。


「……! あ……ありがとうございます」


ヒューネ様が、淡々とお礼を言ってくる。


しかし、その頬がわずかに緩んでいるのが見てとれた。


やっぱりブドウやワインに目がない人なのだと、私は内心苦笑する。


「ユレイラさんには、クラフトビールを……。私が創った、ちょっと変わった味のする特製のビールです」


「おおっ!! エリーヌ殿がおっしゃるのですから、相当美味しいビールなんでしょうね!」


「美味しいかはわかりませんが、きっと味わったことがないビールかと思います」


「ありがとうございます! さっそく今夜、飲んでみたいと思います!」


ユレイラさんに、ラッピングしたビール箱を贈呈する。


私は言った。


「そして、他の皆様には、差し入れをお持ちしました。クッキーという名の焼き菓子です。よろしければみなさんで食べてください」


私はアイテムバッグからクッキーを取り出す。


「火縄銃のデモンストレーションの際に知り合った方々へ。どうか、渡しておいていただけませんか?」


そう頼むと、ヒューネ様がうなずいた。


「わかりました。必ず、渡しておきましょう」


「ありがとうございます」


「いえいえ。礼を言うのは、こちらのほうですよ」


ヒューネ様が苦笑した。


殿下や、ユレイラさんが、口々にお礼を言ってくる。


クッキーは、近くにいた女官たちがいったん預かってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る