第4章164話:聖杖


「アリスティの述べた点について、いかがですか。ダルネア公爵?」


私は尋ねつつ、ロールキャベツを食べる。


んーっ、胡椒の風味がスパイシーで美味しい。


「対価というならば、アレが対価になるんじゃないかしら?」


「アレ?」


「大エルフの聖杖(だいえるふのせいじょう)―――という杖の名前はご存知かしら?」


大エルフの聖杖。


もちろん、知っている。


「アーティファクトですね」


私はそう答えた。


いわゆる【アーティファクト】と呼ばれる、伝説のアイテム群。


霊薬。


聖剣。


神槍。


秘宝。


……などなど。


アーティファクトにはさまざまな種類があるが……


杖というカテゴリにおいて、よく名前が挙がるのが【大エルフの聖杖】である。


【大エルフの聖杖】は、ステータスを一時的に上昇させるバフ魔法の杖。


しかも、攻撃力、防御力、敏捷力、魔力、魔法耐性など……全ステータスを一時的に上昇させる、最強のバフ杖である。


「存じております。錬金魔導師を志す者にとって、アーティファクトは到達点の一つですからね」


――――錬金魔導師の目標とは何か?


それは"アーティファクトの錬成である"と答えられることが多い。


なぜならアーティファクトは、錬成の難易度が極めて高いからだ。


人間に創るのが不可能ではないかとされるモノもあるほど。


創造できれば、歴史に名を残すこともある。


錬金魔導師にとって、これほど憧れるものはない。


だからこそ錬金魔法の道を目指す者は、メジャーなアーティファクトの名を常識レベルで知っているのだ。


「ニナは【大エルフの聖杖】の必要素材を知っているわ」


「ええ!? そうなんですか?」


素直に驚く。


アーティファクトは、錬成が難しいということもあるが……


そもそも必要素材さえ見当もつかないことがほとんど。


ほんとにニナさんが知っているなら……とんでもない情報価値がある。


「ニナはエルフなのよ。だからエルフ系アイテムには詳しいわよ」


「いや、でも聖杖は、そんじゃそこらのアイテムじゃないでしょう……ニナさんって、実はエルフの王族だったとかではありませんよね?」


「違うわ。エルフの族長の遠い親戚だったらしいわよ」


族長の遠い親戚かぁ……


たぶん普通のエルフだね、それ。


「まあ、巫女みたいな家系で育ったらしいから、聖杖の作り方を知れる環境にあったのかもね」


「なるほど。そういうことですか」


「というか、エルフの支配的立場にあるのはハイエルフだから、ニナは良家の血筋ではないわよ。普通のエルフよ」


エルフを統率しているのはハイエルフだ。


ハイエルフは精霊魔法を行使できる特殊なエルフ。


そしてエルフ社会の上流層である。


ニナさんはハイエルフではないということなので、上流階級の生まれではないということになる。


「で……私が錬金魔法を教えるかわりに、聖杖の必要素材を教えてもらえると?」


「そう。取引としては悪くないんじゃないかしら?」


「まあ、そうですね」


聖杖の情報を得ることができるのは、とてもありがたい。


錬金魔導師として、その情報に惹かれない者はいないだろうから。


「わかりました。ニナさんの師匠、引き受けさせてもらいます」


「ありがとう。今の話は、ニナに伝えておくわ」


「ええ。よろしくお願いします」

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