第4章163話:弟子


ダルネア公爵は説明する。


「ニナ・フローネンという名前の娘なんだけれどね。孤児院出身なんだけど、面白い才能があったので、あたしのもとで育てていたのよ」


「面白い才能?」


「数学の才能よ」


ああ……。


まあ、ダルネア公爵だもんね。


私は納得する。


「でも本人は、錬金魔法の【適性】があり、錬金魔導師の道を志しているわ。ただ……」


一拍置いてから、ダルネア公爵が告げる。


「彼女に錬金魔法の才能はないわ。至って平凡よ。どれぐらい才能がないかっていうと、【一般錬金試験】に落ちるぐらいね」


「ああ……それは、平凡ですね」


一般錬金試験とは、錬金魔導師として働いていくための最低資格である。


錬金魔導師として商店を開いたり……


研究所に所属したり……


職人として働いたり……


そういった仕事をするには、必要な資格だ。


もし一般錬金試験に受かっていなければ、多くの錬金系の仕事に就くことができない。


ギルドのポーション依頼などで小遣い稼ぎをするのが関の山となる。


「それでもニナは錬金魔法の道を志していて、そのために師事できる相手を探してる。だから、なんとかしてあげたくてね」


公爵はそう述べた。


私は尋ねる。


「なるほど。ん……? でも何故、私に師匠役を頼むんですか? 旅をしながら錬金魔法の勉強をするより、リズニス王国で落ち着いて勉強したほうがいいんじゃ……?」


その問いに、ダルネア公爵は笑って答えた。


「なぜかといえば、ニナは"数学の才能があって、かつ、錬金魔法の【適性】がある"からよ。ほら、誰かに似ていると思わない?」


「……私ですか」


「ええ。だから、あなたに任せるのが一番だと思ったのよ」


「なるほど……ちなみに、そのニナさんって、どんな人ですか? 性格的に難がある人は、御免ですが」


「その点なら何も問題ないわ。良識もあるし、真面目で優しい娘よ」


ふむ……。


なら、私は別に連れて行っても構わない、かな。


ただキャンピングカーの旅は私一人で行っているものじゃない。


アリスティの意思も聞いておかないと。


「ニナさんを連れて行くことについて、アリスティはどう思いますか?」


「私は……どちらでも構いません。お嬢様が決めたことに従いますよ」


「そうですか」


「ただ、強いて言うならば」


と、アリスティは前置きしてから述べた。


「お嬢様が弟子をお取りになったとして、お嬢様になんらメリットがないのであれば、反対します。私は、お嬢様に善意を安売りしてほしくはありません。そのニナという女性には、きちんと対価を求めるべきでしょう」


アリスティの言葉に、私はほっこりする。


私のことを想って言ってくれている言葉だ。


本当に優しいメイドだよね、アリスティは。

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