第4章160話:デモンストレーション終了
「その証明といたしまして、私は今回、一切、魔力を使わずに射撃してみせましょう」
「そ、そんなの、無理に決まってるだろ!」
また、横槍を入れてくる者がいた。
聞きかじったプロフィールを思い出す。
彼の名はアルシュ。
宮廷魔導師・錬金魔法部の見習い。
青髪・黄色の目で、身長160cmぐらいのお坊ちゃん。
童顔である。
が……やたらムスっとした表情をしていた。
「魔力がなくても、ミスリルを破壊できる武器なんて……常識を越えてる。有り得るわけがない!」
「アルシュ。落ち着きなさい」
そう注意したのは別の男性だ。
彼の名はキーリントン。
宮廷魔導師・錬金魔法部・第二席。
錬金魔法部が現在、第一席が不在なので、事実上のトップがキーリントンさんである。
真面目そうな顔立ち。
目は黄色。
髪は、黒髪の七三分け。
いかにも研究員という風貌。
痩身であり、まるで枯れ木のような男だ。
「申し訳ありません! キーリントンさん!」
アルシュさんが慌てて謝罪する。
キーリントンさんは言った。
「始まる前から、あれやこれやと言っても仕方がない。実際にやってもらってから、討議すればいいのではないか」
女王が同意する。
「キーリントンの言う通りじゃな。エリーヌ、さっそくはじめよ」
「はい」
私は火縄銃を構える。
沈黙が立ち込める。
誰もが、私の動きに注目した。
視線を感じる。
私は【射撃補正の指輪】の感覚に任せて――――
射撃をおこなった。
ズバァンッと発砲音が鳴る。
直後、200メートル先のミスリル板に直撃。
轟音が炸裂した。
ヒューネ様たちがミスリル板を回収して、持ち運んでくる。
果たして、結果は。
「2枚、貫通しておりました」
ヒューネ様がそう報告してくる。
証拠として、ミスリル板をテーブルに置いた。
私は微笑む。
周囲がざわめきの声をあげた。
「本当にミスリル板を……?」
「すさまじい威力だ」
「しかも弓なんぞより、遥かに速いではないか」
「これを魔力が持たない者でも撃てると?」
「なんという貫通力なのかしら」
驚嘆と感心の混じった言葉を、口々に漏らす。
アルシュさんも信じられないといった顔をしている。
「有り得ない……2枚も貫通させるなんて……」
キーリントンさんは言う。
「……宣言通り、エリーヌ殿は魔力を行使していなかった。身体強化魔法さえ、使っている素振りはなかったな」
魔力を使わなくてもいいということは、魔法の才がない凡人でも、ミスリルを破壊できる兵になれるということ。
しかも、数百メートル離れた長距離から、対象の破壊が可能。
そのすさまじい可能性を感じられない者など、一人もいないだろう。
軍の将軍は興奮気味に言った。
「ハハハ、これが実用化されれば、制圧力が桁違いに跳ね上がる! キーリントン、作れそうか?」
「さて、どうだろう……。エリーヌ殿? その火縄銃とやらのサンプルはいただけるのか?」
「はい。ご提供させていただくつもりです」
「ならば錬金棟で、まずは分析をさせてもらおう。女王陛下、どうか分析および開発のご許可を」
女王陛下はうなずいた。
「うむ。許可する」
「ありがたき幸せでございます」
キーリントンは、うやうやしく一礼する。
私は言った。
「それでは、私のデモンストレーションは終了させていただきたく思います」
全員の前で、礼をする。
拍手が起こる。
デモンストレーションが成功したことに、私はホッと安堵するのだった。
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