第4章156話:語学


今度は、殿下が教授役になる。


私が教わる番。


教えてもらうのは、語学。


ゼーリタ語である。


ゼーリタ語は、北東の幅広い国々で使われる言語。


これ一つ覚えておけば、複数の国に対応できる、お得な言語だ。


殿下の講義は……


なかなかハードであった。


単語、文法、リーディング、ライティングよりも。


発音、リスニング、スピーキングがメイン。


異世界では、ほとんどの人は、読み書きができなくてもやっていける。


だから読み書きは後回しでいい、という理屈だ。


「まあでも追々、読み書きも教えてさしあげますわ。しかし重要なことはリスニングとスピーキング」


「うんうん」


「聞けて話すことができたなら、文字に落とし込むことは難しくありませんもの」


というわけで、リスニングとスピーキングのみの講義が始まった。


まずゼーリタ語の短い会話文を殿下が告げる。


ネイティブスピードのリスニングだ。


このリスニングをひたすら私が復唱させられる。


発音の甘さは徹底して修正。


ついでにリスニングの中で出てきた文法と単語を覚えまくる。


そうして、わずか1時間のうちに20の文法と、500の単語を叩き込まれ……


その文法と単語のみを使ってスピーキング、スピーキング、スピーキングだ。


(めちゃくちゃハードだ、これ……)


超絶実践重視。


脳をフル回転させないと対応不能だ。


でも楽しい。


これぐらい脳をガンガン使うと、だんだん気持ちよくなってくる。


(これなら最速で言語を習得できそうだね……)


私は高い集中力で、殿下の語学講義に没頭した。





夏が本格的に始まり、暑くなってくる。


私は夏対策として、錬金魔法でエアコンを製作する。


キャンピングカーに搭載した。


リビングと、アリスティの寝室、私の寝室……それぞれ三ヶ所に。


このため、王女の屋敷よりも、キャンピングカーで過ごすことが多くなった。





<女王視点>


王城の執務室。


いつものごとく、女王とヒューネが語り合う。




現在、上流社会では、大規模な粛清がおこなわれている。


ルシェス・ヴァンブルに関わった犯罪者たちの粛清である。


すでに女王は、数十名の貴族・政治家を処刑した。


叩けば叩くほど埃が出る、といった具合に、貴族たちの不正が次々と明るみに出ていた。


特にひどいのは【第一王女派】であった。


シャーロットを支持していた【第一王女派】は、ルシェスとズブズブであり……


幅広い犯罪に関与していたことが判明している。


当然、全員処刑である。


「ある意味、幸運なことかもしれませんが」


と、前置きしてからヒューネは言った。


「エリーヌを憎んでいた、第一王女派の連中を、片っ端から処刑できましたね」


第一王女派は、エリーヌに強い憎しみを抱いていた。


王女が永世巫女になったこと、そして、ルシェスが死んだこと。


それらはエリーヌが招いた事態だからである。


「そうじゃな。これでエリーヌに迷惑がかからなくて済む」


女王は現在、エリーヌの価値を強く認めている。


ゆえに、ここで第一王女派が暴走して、エリーヌに復讐を始めたりすると厄介だ。


それを未然に防げたことは大きい。


「第一王女派、ルシェス、ヴァンブル……こやつらは、国の病巣じゃったな。わが監視の目をかいくぐり、よくぞ大規模な悪事に手を染めていたものよ。わらわの目は、節穴じゃった」


「そのようなことは……。連中の悪事に気づけなかったのは、おそらくルシェスの【予感能力】が原因だと思われます。実際、ヴァンブルよりもルシェスのほうが、犯罪規模が遥かに大きいです」


自身に都合の良い者と、都合の悪い者を選別するルシェスの予感能力。


それを駆使して、ルシェスの犯罪を告発するはずだった者を、未然に排除していたのだろう。


だから、犯罪が巨大化しても、なかなか露見しなかった。


「ルシェスは事務方のトップでもあったからな……情報操作は容易かったじゃろう」


女王はため息をつく。


そして続けた。


「あのようなクズどもを信頼していたわらわは、どうかしていた。シャーロットにも、悪いことをしたな」


シャーロットにはルシェスを婚約者として押し付けてしまった。


それがシャーロットをどれだけ苦しめたか。


女王は反省するばかりである。


「シャーロットとエリーヌが、国をただすチャンスをくれた。この機会に、悪を一掃するぞ」


「私も尽力いたします」


ヒューネはそう答えた。


現在は、まだ混乱期ではあるが……


リズニス王国の上層部は、着実に良い方向へと、改善しつつあった。

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