第4章155話:科学
私は説明した。
「科学という言葉の定義は広いですが、ざっくりと"自然現象を論理や数式で読み解いた学問"だと思ってください。それを実社会に応用した技術を、科学技術と言います」
「自然現象を……」
「はい。具体的には物理現象や生物に関する知識などですね。また、それを理解するためには数学の高度な教養も必要です」
「ふむふむ」
基礎知識などはレジュメに書いておいた。
なので、あまり詳しく、語るつもりはない。
読めばわかることを、いちいち説明するのは時間の無駄である……というのが、私の基本方針だからだ。
「というわけで、ここからは、ひたすら数字や数式と格闘してもらいます。殿下は、数学は得意ですか?」
「それなりに出来るつもりですわ」
「なら、ガンガン進めていきますね」
そう判断して、私は、まず力学の基礎となる微分・積分から解説を始めた。
1時間後。
微積分……
それからベクトル、三角関数の基礎について説明したのち。
少し休憩を取ることにした。
「難しいですわ……」
休憩を宣言した瞬間、殿下はテーブルに突っ伏した。
「これまで学んできた数学とは、一線を画する難易度ですわね。デルタとかサインコサインとか……意味不明な記号が多すぎですわ」
ユレイラさんも同意する。
「暇なので、私も講義を聞かせていただいておりましたが……確かに次元が違う難易度ですね。実家の英才教育でも、ここまで高度な数学は学びませんでした。エリーヌさんは、これを完璧に理解しておられるんですよね?」
「完璧というと、難しいところですね。数学はどこまでも奥深い学問で、私に解けない問題もたくさんありますし」
1+1とは何か?
というレベルの話でも、丸一日は議論できるのが数学だ。
考えていけばいくほど、深い。
安易に完璧などという言葉は使えないだろう。
それから1時間。
私は、シャーロット殿下に講義を行った。
最初の1時間で思ったことだが……。
シャーロット殿下は、吸収力が高い。
口では「難しい」とこぼしているものの、しっかりと理解して付いてきているのだ。
なので私は……。
教えるペースを速めることにした。
内容のわかりやすさには細心の注意を払う。
されど、講義スピードは、さっきの2倍にする。
説明を早口にして、とにかく数式を書きまくる。
常人ならばついていけないハイペース。
しかし、殿下はそれでも置いてきぼりにならず、付いてきた。
(殿下は理解力が高い。教えたら教えただけ吸収する……)
そう確信する。
さすが、王族というべきだろう。
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