第4章154話:錬金棟
2日後。
私は殿下に、周辺国家の言語について、教わることになった。
殿下は、英才教育によって7カ国語を習得しているらしい。
しかもほとんどネイティブ並みに話せるという。
ご教授を願ったところ、ゼーリタ語について、教えてもらえることになった。
教本も買ったので、しばらくは、この言語の習得に励もう。
3日ほどが過ぎた。
昼。
晴れ。
私は、王女とともに、王城の離れにある【錬金棟】にやってきていた。
アリスティ、ユレイラさんが、護衛として付いてきている。
「へぇ……王城にはこういう建物もあるんですね?」
棟の廊下を歩きながら、私は尋ねた。
シャーロット殿下が答える。
「ええ。宮廷魔導師が利用する研究棟ですわ」
この【錬金棟】は、錬金魔法の研究のために作られた棟だという。
―――錬金魔法の宮廷魔導師として認定された者。
―――あるいは、宮廷魔導師・見習いとして認定された者。
以上の二者だけが利用する、王立の研究施設。
国が誇る錬金魔法の頭脳が集まっているという。
「宮廷魔導師か、その見習いだけが利用する施設ですか。えっと……私が入ってもいいんです?」
「講堂を利用させてもらうだけですわ。利用許可は取ってありますから」
「ふむ……」
今日、殿下と一緒に【錬金棟】を訪れたのは。
錬金棟の講堂にて、講義をするためだ。
先日、私は、殿下に錬金魔法を教えることを約束した。
しかし、教える場所として最適な場所が、屋敷にはなかった。
錬金魔法を学ぶにあたっては、座学だけでなく実験もしないと意味がない。
だが王女殿下の屋敷に、アトリエや実験室があるわけがない。
というわけで、実験が可能な施設を模索したところ……
まさに【錬金棟】が最適ではないか、と、王女が思い至ったのだ。
「講堂は座学と実験の両方が行えますわ。錬金魔法の学び場としては、もってこいでしょう」
しばらく歩き続けると、私たちは1階奥の扉にたどり着く。
扉を開けると、そこは大ホールだった。
「ここが講堂ですわ」
シャーロット殿下が告げる。
まるで、大学の講義室のような風景。
段々状のテーブルがずらりと並ぶ。
一番下のステージに、講壇がある。
講堂の隣の部屋はアトリエになっているようだ。
アトリエには、錬金魔法の用具が揃っている。
実験器材には事欠かなそうである。
「この講堂では、錬金魔法の研究結果を発表したり、議論を行ったりするようですわ」
「なるほど。で……今回は、お勉強のために使うと?」
「ですわ。よろしくお願いしますわね」
殿下が一番前段のテーブルに腰をおろす。
ユレイラさんとアリスティは、その一つ後ろのテーブルに着いた。
私は講壇に立つ。
(まるで大学教授になった気分だ……)
そんなことを思いながら、アイテムバッグから、用意していたレジュメを取り出した。
レジュメを殿下に渡す。
次に、
ホワイトボード、
マジックペン、
イレーザー(ペン消し)
……などをアイテムバッグから取り出す。
これらは、事前に錬成によって製作しておいたものだ。
準備が整ったので、講義を始めた。
「では初めさせていただきますね。殿下は、錬金魔法についてはプロ級の知識があるとのことなので、基本的な知識の解説は割愛して……科学の知識と、実践的な知識について、説明したいと思います」
私はペンでホワイトボードに原子や、原子構造について図解する。
書きミスをしたので、イレーザーで消す。
もう一度、書く。
「その白い掲示板……便利ですわね。文字や絵を、書いたり消したりできるんですの?」
「そうですね。この掲示板はホワイトボードといいます」
するとユレイラさんが言った。
「紙の大幅な節約になりますね。まあ、ペンやペン消しが高価なのかもしれませんが」
「高価ではないですが、科学的な知識で作っている道具ですから、製作のためには専門的な知識や道具が必要ですね」
「その"科学"というのは、学問のことですの?」
「はい。私の錬金魔法の根幹にある学問のことです」
そう答えると、シャーロット殿下が身を乗り出した。
真剣な顔つきになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます