第4章153話:炭酸


女王、バンホーンさんへの紹介が終わって。


最後に、ヒューネ様へ車内を案内していた。


「壁のコントロールパネルを操作すれば、このように……音楽を流したりもできます」


実際に音楽を再生する。


ヒューネ様は驚く。


「凄いですね。凄すぎて……もうなんと言っていいのかわかりません」


「あはは」


「お風呂、トイレ、キッチン、ベッド……こんなにいろいろ搭載して、ちゃんと走れるんですか?」


「ええ。なかなか速いですし、悪路も難なく走行できますよ」


キャンピングカーのタイヤは、馬車のタイヤよりも頑丈だ。


さらに錬金魔法で、強化型タイヤに変えてある。


悪路走行耐性も極めて高い。


「走るときは、人力で操作すると仰っていましたね」


「はい。運転席でハンドルを操作します。私の場合は、錬金ゴーレムに操作させてますね」


「なるほど……有難うございました。では、そろそろ女王陛下のもとへ戻りたいと思います」


「はい。……あ、先に下りていただいてよろしいですか?」


「……? はぁ」


ヒューネ様が下車していく。


私はキッチンの冷蔵庫から、人数ぶんの缶ジュースを取り出した。


炭酸のぶどうジュースである。


それを抱えて外に出る。


「みなさん、お疲れ様でした。ジュースを用意しましたので、どうぞお飲みください」


まず近くにいたバンホーンさんが受け取る。


「おお。気がきくな。……って、冷たい!? キンキンに冷えてるじゃないか!」


「錬金魔法で創った、冷蔵庫と呼ばれるものに保管しています。ジュースや食材を冷やすことができるんです」


「凄すぎるな。それもキャンピングカーに乗せているのか」


「ええ」


私はバンホーンさんの質問に答えながら、缶ジュースを手渡していく。


女王が尋ねてきた。


「これはどうやって飲むのじゃ?」


「上面を開けます。プルタブをくいっと引いて、このように立てれば、飲めるようになりますよ」


私は実演してみせた。


みんなもさっそく実践する。


女王が飲んで、感嘆の声をあげる。


「美味い!」


続いてバンホーンさんが言った。


「ぷはー! 美味いな! ガツンと来る冷たさだ!」


護衛の騎士たちも、


「おお……甘くて美味しい!」


「最近暑くなってきたから、これは効くわね!」


と、好評を述べていた。


最後にヒューネ様が、ぷるぷると震えながら言った。


「な、何ですか。これ」


彼女は、炭酸ぶどうジュースにひときわ驚いているようだ。


キャンピングカーを見せたときとは反応が違う。


ヒューネ様がまるで掴みかからんばかりの勢いで迫ってくる。


「エリーヌさん! こ、このシュワシュワした食感は何ですか!?」


「えっと……それは炭酸ですね」


「炭酸……?」


「あー……説明がちょっと難しいので、割愛させていただきたいですね。すみません」


炭酸飲料の根幹にあるのは炭酸ガス。


つまり二酸化炭素。


それを端的に解説するのは難儀である。


「ヒューネはよほどこのジュースが気に入ったようじゃな」


女王がそう指摘すると、ヒューネ様は顔を赤らめた。


「ええと、その、はい」


女王によると。


どうやらヒューネ様は、ぶどうが大好物らしい。


ぶどうのジュースや、ワインなどに目がないそうだ。


ヒューネ様は言った。


「正直、作り方を教えていただきたいほどですが、それが無理でも、このジュースを売っていただくことはできませんか?」


「ん……別に構いませんよ」


「ほんとですか! なら、買わせていただきます!」


かくしてヒューネ様に、後日、ぶどうジュースのまとめセットを届けることになった。

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