第4章151話:女王視点ふたたび


<女王視点>


女王ベスティーヌは、靴を脱いだ。


エリーヌの後に続いて、キャンピングカーへ乗車する。


「……!」


瞬間。


目の前に広がる光景に、しばし、呆然としてしまう。


キャンピングカーの車内。


それは、まさしく、異空間であった。


「な、なんじゃこれは……本当に馬車なのか!?」


テーブル。


椅子。


床のマット。


どれを取っても一級品であることは、すぐにわかる。


さらに、壁材。天井材。床材。


さきほどバンホーンが指摘していたが、女王もまた、壁や天井にどんな素材が使われているか見当もつかなかった。


驚く女王をよそに、エリーヌが説明を始める。


「機能をご紹介したいと思います。こちらは、キッチンです」


「ん……?」


き、キッチン?


聞き間違えではないかと思い、確認する。


「おぬし、いまキッチンと言ったのか?」


「はい。たとえばこのツマミを回すと、火がつきます」


カチャッとツマミを回すエリーヌ。


すると、彼女が宣言したとおり、ボッと火があらわれた。


女王は絶句する。


「なっ……」


「この火のうえに、こんなふうにフライパンを置けば、料理が可能なんです」


実際にフライパンを置くエリーヌ。


なるほど、確かにこれなら料理ができるな……


などと納得しかけた女王は、すぐに我に返った。


(いや、おかしいじゃろう!? なぜ馬車の中にキッチンがあるのじゃ!?)


――――料理ができる馬車。


それだけでも規格外なのだが、真の驚きはここからであった。


「ここがお風呂です」


「風呂じゃと!!?」


「はい。ここを回すと、シャワーから水が出ます」


エリーヌの説明通り、シャワーからさわさわと水が噴き出した。


有り得ない現象だ。


水魔法を使っているのか?


「で、こちらがトイレですね」


「トイレ……」


「ここのハンドルを回すと、水が流れる仕様になっています」


女王はもはや言葉を失っていた。


およそ馬車には存在しないはずの機能のオンパレード。


しかも……


恐ろしく便利だ。


高級宿や王城でも、ここまで高度な設備は存在しない。


(馬車……いや、自動車といったか?)


乗り物という概念が変わってしまうような、未知の車。


キャンピングカー。


これが……


このような馬車が……


本当に走るというのか?


(シャーロットによれば、馬車よりも速く移動できるという。そんなことが有り得るのか?)


しかし、シャーロットが絶賛した理由も、よくわかった。


確かに、このキャンピングカーは、言葉に尽くせないほど凄まじい。


馬車の上位互換……などと形容することさえおこがましい、隔絶した未来技術だ。


女王は、キャンピングカーの素晴らしさを認めるとともに……


それを製作したエリーヌに、心からの称賛を送るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る