第4章149話:錬金魔導部の男
「屋敷?」
ある日。
シャーロット殿下が、私に屋敷を贈呈すると言い出した。
「えっと、どういうことですか?」
私は説明を求める。
するとシャーロット殿下は、女王とのやり取りについて話した。
「――――という話を、お母様としたのですわ」
「えーと……つまり、私がリズニスを訪れたときの拠点として、屋敷を贈呈したいと?」
「そういうことになりますわね」
なんとも……
金持ちの感覚には、ときどき付いていけなくなりそうだ。
私の半分は、日本の一般庶民だからね。
屋敷をプレゼントなんて、めちゃくちゃな提案である。
「うーん、私、屋敷とかいらないんですけど……」
正直に答えた。
「どうしてですの?」
「だって、ほぼ使わないじゃないですか。それなのに、維持費も必要ですよね」
屋敷を手に入れたら、野ざらしで放置しているわけにはいかない。
使用人を雇って、清掃などをこまめにおこなわせておく必要があるだろう。
旅に出たあとには、屋敷なんて、むしろ邪魔になってしまう。
シャーロット殿下は言った。
「屋敷の維持費は、全てお母様が持ちますわ」
「え、マジですか……」
好待遇すぎるな。
「……まあ、それぐらい、お母様は、あなたのことを重要な存在だと考えているということですわ」
「ふむぅ……」
私じゃなくて、アリスティがメインだろうけどね。
今のリズニス王国が何より欲しいのは、武力だろうし。
アリスティを味方に引き込むために、その主人である私に媚びておこうという感じだろう。
「まあ、維持費ないなら、損はないでしょうし……くれるというなら、もらっておきましょうか」
「では、そのように話を進めておきますわね」
「わかりました。よろしくお願いします」
翌日。
朝。
王城。
私は女王陛下から呼び出され、城の執務室を訪れていた。
いつものように、ヒューネ様も女王の横に控えていらっしゃる。
「おぬしへの疑いが晴れた」
開口一番、女王がそう述べた。
私は首をかしげた。
「……疑い?」
「ランヴェル帝国からの工作員ではないか、という疑いじゃ」
「……ああ」
私は納得する。
ヒューネ様が告げる。
「エリーヌさんが国外追放されたこと。また、フレッド・フォン・ブランジェがおそらく死去しているであろうこと。この二つの確認が取れたため、あなたを工作員ではないと判断しました」
「そうですか。ありがとうございます」
「いいえ。こちらこそ、疑ってしまい申し訳ありませんでした」
疑惑が晴れたなら、気にしない。
女王が言った。
「ところで……エリーヌよ。キャンピングカーを見物させてもらいたい、と言った件は覚えているか?」
「あ……はい。もちろん、覚えています」
「近日中に、拝見させてもらいたいと思っておる。いつなら都合がよいじゃろうか?」
「えーと、事前に言っていただければ、いつでも構いません」
現在、私がしていることといえば。
殿下に錬金魔法を教授するための資料づくりぐらい。
大部分の時間が暇だった。
「ならば、今からはどうじゃ?」
「……え? 今からですか?」
「用事があったかのう?」
「いえ、特にそのようなことは。大丈夫です」
急な話なので驚いただけだ。
もちろん、今日も一日暇だ。
キャンピングカーを見せる時間ぐらい取ることはできる。
「それではさっそく参ろう。案内してくれ」
「承知いたしました」
私は女王たちを連れて、執務室をあとにする。
王城の廊下で、女王は、宮廷の錬金魔導師を一人誘うことになった。
錬金魔法の専門家からの意見も欲しいからだという。
女王は、その錬金魔導師を紹介した。
「キャンピングカー見学には、この男も同行させよう。紹介する、彼の名はバンホーンじゃ。ええと、たしか宮廷魔導師・錬金魔法部・第六席……じゃったかな?」
バンホーンと呼ばれた男は、歓喜の念をあらわしながら答えた。
「はい、その通りでございます。女王陛下よりご認知をいただけていたとは光栄の至りです!」
気の良さそうなスキンヘッドの男である。
目は黄色の瞳をしている。
鍛えているのか、礼装の上からでも筋肉が浮き上がっている。
私は言った。
「初めまして。エリーヌ・ブランジェです。こちらはアリスティ。本日はよろしくお願いします」
アリスティが静かに一礼をする。
バンホーンさんは私の名前を聞いて、目を見開いた。
「バンホーン・アラベックだ。ご紹介いただいた通り、錬金魔導師・第六席を務めている」
そう自己紹介をしてから、バンホーンさんは陽気に続けた。
「あんたのことは聞いている。ドラル遺跡を解いたんだってな。そんな凄腕の魔導師が作った錬成物を見られるなんて、楽しみで仕方がない」
「凄腕……」
そんなことありません……と思わず、言いそうになった。
しかし、慌てて口をつぐむ。
異世界では謙遜は必ずしも美徳ではない。
堂々としていよう。
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