第4章148話:女王視点2
<女王視点・続き>
翌日の朝、シャーロットを執務室に呼び出す。
ベスティーヌはシャーロットに事情を話した。
事情を聞いたシャーロットは、短く答えた。
「取り込むのは難しいと思いますわ」
「なぜじゃ?」
「エリーヌさんは、旅をすることをライフワークの一つにしておりますもの。いずれリズニスを発つとも、本人はおっしゃっておりました」
「ふむ……」
旅、か……。
「まあしかし、リズニス王国に明確な居場所を与える、というのは賛成ですわ。エリーヌさんの旅を引き止めるのは不可能でも、住居を与え、拠点を用意することはできますわ」
「拠点……屋敷でも与えよというのか?」
「はい」
「それで引きとめられるのか?」
「ですから、引き止めることは不可能です。旅を妨害するようなことをすれば、嫌われてしまいますわよ」
シャーロットは説明する。
「エリーヌさんとは、ガチガチの利権で結びつくのではなく、もっとゆるく、付かず離れずのお付き合いが一番だと思いますわ。彼女が旅に出たいというならば、こころよく送り出し、帰ってきたときには暖かく歓迎する……そういう距離感を保ったほうがよいと、わたくしは愚考いたします」
「おぬしとエリーヌも、そういう付き合いだと?」
「いいえ。わたくしとエリーヌさんは、親友ですわ。共に死線をくぐった仲ですもの。まあ、わたくしは、戦闘が起こってもほとんど見ていただけで、あまり役には立てなかったのですけれどね」
「政治的には、浅い付き合いに徹したほうがいいということか……」
「お母様が、お困りなのは、国の武力のことですわよね?」
「ああ、そうじゃ」
シャーロットは馬鹿ではない。
現在、女王が何に悩んでいるのかを把握している。
イグーニドラシェルが抜けた穴をどう埋めるか……だ。
英雄の欠落は、計り知れない痛手であるため、早急に対処しなくてはいけない。
「でしたら、エリーヌさんが国にいるうちに、兵器に関する技術指導を依頼してみてはいかがでしょう? 彼女ならば、強力な武器開発をおこなってくださると思いますわ」
「……実は先日、技術提供をおこなう、とエリーヌから申し出があったのじゃ」
「ならば、ちょうどいいではありませんか。お母様は、まだ、エリーヌさんの底知れぬ技術力を知らないのでしょう? 一度、ご覧になってみればわかりますわよ」
シャーロットは少し、興奮気味に伝える。
「エリーヌさんの隔絶した技術力。神に与えられたとしか思えない錬金魔法の才能。わたくしは彼女が、ドラル・サヴローヴェンの再来ではないかと思っておりますわ。エリーヌさんの力を借りれば、武力も、国力も、大きく向上させられることは間違いありませんわよ」
「ふむ」
「もちろん、彼女に無理をさせない範囲で依頼してくださいましね。わたくしにとって、エリーヌさんは恩人ですの。ですので、彼女が嫌がることは、わたくしも強く反対いたしますわよ」
「わかった、肝に銘じよう」
「ええ。……では、わたくしはそろそろ失礼いたしますわ」
「うむ。貴重な意見の数々、感謝するぞ」
シャーロットは部屋を去っていく。
女王ベスティーヌは、シャーロットの言葉を咀嚼しながら、今後のエリーヌへの対応を考えるのであった。
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