第4章146話:カフェ


喫茶店に入る。


路地を眺められる窓際の席に着いた。


対面にアリスティが座る。


アリスティは窓の外を眺めながら、感想を述べた。


「本当に広い街ですね。それに、とても賑わっています」


「リズニス王国は平和ですからね」


権謀術数けんぼうじゅっすううずまく上流社会はともかく、平民レベルでは間違いなく平和だ。


そして平和な国には、自然と活気が溢れるものである。


「しばらくは、この国で活動しようと思います。まあ3ヶ月ぐらいを目安に」


「3ヵ月後は、いかがされるおつもりですか?」


「リズニス周辺には、行ったことがない国がたくさんありますからね。諸国漫遊の旅でもしようかと思います」


「なるほど……それは、とても楽しそうですね」


「アリスティは行きたい国や、場所などはありますか?」


「私は、お嬢様が向かう先についていくだけです。ただ、強いて挙げるならば―――――」


「挙げるならば?」


「思いきり冒険してみたい気分です」


「……なんだか意外な言葉ですね」


「そうですか? 私は、もともと旅人でしたし、先日言ったように島暮らしでした。こう見えて野生的なんですよ」


野生的、か。


まあ、軍人でもあるもんね。


軍人は、旅やサバイバルが嫌いではやってられない。


遠征や山中作戦なんて、当たり前だからである。


……と。


そこまで話したところで、注文した茶菓子を店員が届けてきた。


「あ、この菓子……甘くて美味しいですね」


私は言った。


砂糖で作ったビスケットのような菓子。


そこにベリーを混ぜているようだ。


アリスティも同意した。


「本当ですね。お茶と、よく合います」


お茶は苦い。


茶菓子は甘い。


甘さと苦さのハーモニー。


意外と、この組み合わせの重要性に気づいている店は少ない。


甘い茶・甘い茶菓子を同時に出してくる店も多いのだ。


ここはなかなか当たりの店だ。


……と思いながら、私は話を再開する。


「旅をするにあたって問題となるのは、言語ですね」


「……確かにそうですね」


アリスティが同意する。


私は言った。


「ちなみに私は現在、ランヴェル語、リズニス語、キヘナ語、ユルファント語の四つが話せます」


エリーヌは貴族の英才教育によって、4カ国語が話せる。


日本語と英語もあわせると6カ国語が話せるマルチリンガルだ。


「リズニスの近隣諸国はユルファント語が多いので、だいたいは対応できるかと思いますが……それでも1つか2つは、新しい言語を習得しておきたいところですね」


言語の習得といっても、完璧な習熟は必要ない。


最低限の意思疎通ができる程度の文法・発音・単語を覚えておけばよい。


「では帰りがけに、語学書を買っていきましょう。王都ならば、販売している店もあるでしょうし。私も、学んでおきたいですから」


アリスティが提案してくる。


私はうなずいた。


「そうしましょうか」





このあと、本屋を訪れる。


目的の語学書を購入し、帰路に着くのだった。

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