第4章141話:師匠


シャーロット殿下は落ち着き払ったまま、説明した。


「以前にわたくしが、やりたいことができた……と、話したことを覚えておられるでしょうか?」


「ああ、はい。おっしゃってましたね……」


「それが、錬金魔法ですわ」


驚愕する。


え……あのとき、結構ガチっぽい雰囲気で言ってましたよね?


まじで錬金魔法の道を進むつもりですか?


私は言う。


「えっと、じゃあ……人生の目標というのは……?」


「錬金魔法に関することですわ。わたくし、王都に店を出そうと思いましたの」


「店を!!?」


錬金魔法の店ってこと?


「はい! できれば、王都一の錬金魔法店を構えたいですわね!」


ぶちあげましたね。


王女が店舗経営かぁ……


貴族御用達の店になるのかな? 庶民にも開かれるのかしら?


まあ、面白い試みだと思う。


ただ、一つ疑問があったので尋ねることにした。


「あの……失礼なことを聞くようですが、殿下には錬金魔法の適性がおありなんでしょうか?」


「ありませんわね」


ないのか。


えっと……それって大丈夫なのかな。


錬金魔法の道は甘くない。


錬金魔法の適性があっても、才能がないと、どこかで頭打ちになりかねないぐらいだ。


かつてのエリーヌ・ブランジェのように。


それが、適性ナシということになると……


成長の限界がかなり低く設定されていると思われる。


(ん……でも、どうだろう? 私が持つ前世の知識を殿下が学べば、適性の問題はクリアできたりするのかな?)


ふと、そんなことを思った。


今だからわかることだが、【錬金魔法の適性】と称されていたものの正体は、つまるところ、自然界にはたらく物理法則を理解する能力のことだ。


錬金魔導師の天才は、その物理法則を、ある程度、直感とか無意識で理解しているのだ。


だから、殿下に理数系のセンスさえあれば、適性の問題はどうとでもなりそうな気はする。


(そもそも、『魔法の適性』ってなんだろう? いったい何をもってして、それが決まっているのかな?)


興味深い研究テーマが、発見できた。


いずれ『適性』に関する謎も、追ってみたいところだ。


「というわけで、エリーヌさん」


シャーロット殿下が言った。


「ご指導ご鞭撻のほどを、お願いできませんかしら? もちろん、ドラルの文献については、わたくしが責任を持って翻訳をさせていただきますので」


「えっと、はい。まあ、構いませんが……私はずっとリズニス王国にはいないと思いますよ。錬金魔法を教えるにしても、この国に滞在している期間中だけ、ということになりますが」


「それで構いませんわ」


「じゃあ、わかりました。引き受けます」


「よかったですわ。それでは改めて、よろしくお願いいたしますわね」


こうして私は、シャーロット殿下の師匠になった。


人生、何があるかわからないものだね。

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