第4章140話:申し出


翌日。


ユレイラさんと王城で会って、雑談することがあった。


彼女との話の中で、ケルフォード家の事後処理についての話題が出た。


ユレイラさんが言うには、ケルフォードの行っていた闇商売について、大規模な調査が入るとのことだ。


既に死去しているルシェス・ヴァンブルについては裁きようがないが……


闇商売に関わった者たちは、容赦なく処刑する予定だとか。


有力者であろうと粛清対象とするらしい。


「女王陛下は、この機会に、国の膿を洗い出すおつもりのようですね」


ユレイラさんは、そのように語った。


まあ、しばらく国中がゴタゴタするだろうが……


悪が一掃されるならば、悪いことではないだろう。





さらに2日後。


シャーロット殿下が、正式に永世巫女となった。


王都の聖堂にて、ささやかに認定式が行われたようだ。


屋敷に帰ってきた殿下が、リビングにて、そのことを報告する。


「これで、晴れてわたくしも、永世巫女ですわ」


私は、祝辞を述べた。


「おめでとうございます、殿下」


「ええ。ありがとうございます。本当に、今回のことに関しては、エリーヌさんには感謝の言葉もありませんわ」


「いえいえ。私は頼まれた依頼をこなしただけですから」


私はそう答えてから、続けた。


「それにしても、永世巫女になるの、早かったですね。王国法を元に戻すのに、もっと時間がかかると思っていたのですが」


王国法から永世巫女の記述は消されていたはずだ。


この短期間のうちに、ふたたび王国法が修正され、永世巫女の制度が復活したのだろうが……


法改正には本来、もっと時間がかかる。


驚くべき対応の早さである。


シャーロット殿下は説明する。


「お母様の勅令で、ほんの数日のうちに、王国法が元に戻されたのですわ」


「へえ、そうなんですか」


「ええ。お母様は、さっさとヴァンブルの利権を手中に収めたかったのでしょう」


ああ……


ヴァンブルの利権と、永世巫女の認定は、交換条件だったからね。


できるだけ早く利権を手に入れるため、永世巫女制度を速やかに復活させたわけか。


「そういえば、ずっと気になってたんですけど、永世巫女ってどんなことをするんですか?」


「特に仕事はありませんわ」


「え? そうなんですか?」


「はい。もともと、形骸化していた制度ですもの。永世巫女がいてもいなくても、万事、とどこおりなく回るようにできているのですわ」


「なるほど……じゃあ、しばらく殿下は王族の公務に戻る感じですかね?」


「それについてですが、お母様から、余計なことはするなと言われてしまいましたわ」


「あらら……」


まあ、そうなるか。


やりたい放題、暴れまわったように見えただろうからね。


「政界は、上を下への大混乱ですわ。それゆえお母様から"大人しく屋敷でこもっていろ"と、事実上の謹慎を言い渡されてしまいました。おかげで、今、結構暇なのですわ」


お?


そうなのか。


ならば……、と私は申し出た。


「でしたら殿下に、やっていただきたいことがあるのですが」


「……? なんでしょう?」


「ドラル・サヴローヴェンが残した文献や書類について、翻訳をお願いしたいのです。私は、旧リズニス語が読めませんから」


「ああ、なるほど。お安い御用ですわよ」


シャーロット殿下が快諾してくれる。


「ありがとうございます。では、お願いします」


「ただし、一つ条件がありますわ」


「ん、条件?」


「はい。見返りとして、わたくしに錬金魔法をお教えいただけませんかしら?」


「……え?」


私はきょとんとしてしまった。


「えっと、教える……とは?」


「錬金魔法の修行をつけてほしいということ……つまり、わたくしの師匠になっていただきたいということです」


「ええ!? 師匠!?」


あまりに斜め上の申し出だ。


素っ頓狂な声をあげてしまう。

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