第4章135話:女王視点3


<女王視点・続き>


ヒューネは続けて言う。


「そして、エリーヌ・ブランジェに死罪を申し渡した場合、我々はあのメイドと敵対することになるでしょう」


「まさにイグーニドラシェルが死んだ今、こちらに対抗できる戦士はいない。勝ち目は薄いじゃろうな」


「私もそう思います。加えて、エリーヌ本人も、相当に優れた御仁であると推察します。なにしろ、あのドラル遺跡を攻略したのですから」


「エリーヌの才と、アリスティの武力。この二つと正面切って戦うのは、得策ではない……そう言いたいのじゃな?」


「おっしゃる通りです。反目するよりは、できるだけ仲良くしておいたほうが無難かと」


「まあ、それが妥当な対応か……」


さらに言えば、エリーヌは、他国の貴族令嬢である。


勝手に死罪を言い渡し、処刑でもしようものなら、ランヴェル帝国とのあいだに軋轢を生みかねない。


……と、女王たちは考えたが、もちろんこれも勘違いだ。


エリーヌは国外追放を受けた身。


別に死罪になったとしても、帝国が苦情を入れることはない。


だが、そのことを知らないヒューネたちは、以下のような誤解も起こす。


「ただし……これがランヴェル帝国による破壊工作であるという可能性もあります」


「フレッド・フォン・ブランジェのことじゃな?」


「はい。エリーヌは、フレッドによって差し向けられた工作員である可能性は、極めて高いものと思われます」


――――言うまでもないが、これも二人の勘違いである。


「この件については、調査のために、帝国へ"草"を放っておきましょう」


草とは、間者や密偵のことだ。


ベスティーヌはうなずいた。


「よろしく頼む。はぁ……それにしても、考えなければならんことが多くて、嫌になるな」


「まったくですね」


既に、ベスティーヌとヒューネの頭の中には、膨大な計算が渦を巻いていた。


だが、国家最高といえる二人の頭脳をもってしても、処理しなければならない情報が多すぎた。


しかも今回のことで、彼女たちに降りかかる仕事量も膨大となる。


しばらくは、不眠不休で働くことになるだろう。


それを予期して、うんざりする二人であった。




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