第4章134話:女王視点2


<女王視点・続き>


「ケルフォード親子の死、イグーニドラシェルの死に関しては、素早く対応しなければ、国が傾きかねん事態となるじゃろうな」


「さようですね。それから、利権書の問題もあります」


「ああ。ダファルダムとの交換か……」


国宝ダファルダム。


伝説とされる鑑定魔導具の一つ。


逸品だが、実際は、完璧な鑑定が行える魔導具ではない。


鑑定能力は、限定的なものに留まる。


それでも、凡百の財宝より遥かに価値のある代物だ。


そのダファルダムを、ルシェスの利権書と交換したいと申し出てきたエリーヌ。


ベスティーヌは見解を述べる。


「ダファルダムを失うのは惜しいが、要求を呑むしかないじゃろうな」


ダファルダムはまさしく秘宝。


失うのは莫大な損失になる。


しかし、所詮は鑑定ができるだけの魔導具に過ぎない。


ケルフォードの利権と天秤にかけたとき、ダファルダムのほうに傾くことはないだろう。


「ケルフォード親子の遺産は、絶対に我々が押さえなければならない。次に会合の場を設けたとき、ダファルダムを差し出す手続きをしよう」


「では手配しておきましょう。ところで……エリーヌ・ブランジェの処遇についてですが」


「処遇……か。おぬしは、いかにするのが適切じゃと思う?」


「普通なら死罪……でしょう」


今回のゴタゴタは、もとを辿ればシャーロットの依頼が始まりだという。


しかし、だとしても、エリーヌ・ブランジェが招いた混乱はあまりにも大きすぎる。


特にイグーニドラシェルを殺したことは、やりすぎだ。


聞くところによると、正当防衛のようだが……


事情はどうあれ、その行動によって国家の武力を大きく低下させ、リズニスを国難に陥れてしまっていることは、まぎれもない事実だ。


第一、他国の者が英雄を討伐するというのは、それだけで万死に値する。


ゆえにイグーニドラシェルの死を公表するのと同時に、エリーヌを公開処刑にしてしまうのが妥当だろう。


しかし……とヒューネは続ける。


「ただ、安易に死罪とするのは危険なのも事実です。まず、状況から察するに、シャーロット様やユレイラ様がイグーニドラシェルを打ち破ったとは思えません。おそらく、アリスティが討伐したものと思われます」


「アリスティとは、やはり、あの六傑のアリスティ・フレアローズか」


「はい。六傑だからこそ、イグーニドラシェルに対抗できたと考えるべきでしょう」


――――もちろん、ヒューネの推測は間違っている。


イグーニドラシェル討伐は、アリスティの力もあれど、どちらかといえばエリーヌの【音響兵器】の貢献が大きいのだが……


まさかエリーヌがそのような兵器を所持しているとは、この二人も考えていなかった。


ゆえに、女王もヒューネも、アリスティがイグーニドラシェルを撃破したと解釈したのだった。

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