第3章132話:要求


シャーロット殿下が言った。


「実はわたくし、こういうものを所持しておりますの」


そう告げてから、シャーロット殿下がアイテムバッグから紙切れを取り出した。


ヴァンブルへの請求書である。


「こちらは、ヴァンブルが我々を殺そうとしたことに関する、慰謝料について書かれています。内容は、ヴァンブルの持つ財産や利権を、全てわたくしに譲渡するというものですわ」


「な、なんじゃと!?」


「ああ、ちなみに、犯罪物は移譲されないように補記しておりますので、ご安心を」


さきほど生首が置かれていたテーブルに、殿下が請求書を置いた。


ヒューネ様がテーブルの前にやってきて、みずから確認する。


それからヒューネ様が、女王に報告した。


「……確かに、そのように書かれています」


ここで、シャーロット殿下が畳み掛けた。


「わたくしは、ヴァンブルの財産も利権も全て、お母様に献上するつもりでございますわ。ただし、わたくしを永世巫女にしていただけるのであれば……ですが」


「……!!」


女王もヒューネ様も、シャーロット殿下が何を言いたいのか、理解したようだ。


ヴァンブルの利権と引き換えに、永世巫女の座を要求する――――


それが殿下の狙いだ。


「永世巫女を廃止したことについて、撤回していただけないのであれば……そうですわね。ヴァンブルの遺産は、そこらの貴族にでも売り飛ばしてしまいましょうか」


女王が憤慨した。


「馬鹿な! そんなことをすれば、王家が追い落とされるかもしれぬではないか! ヴァンブルの権益に、どれほどの価値があると思っておる!?」


「ええ。ですから、永世巫女の座と交換していただきたいのですわ」


女王が歯噛みする。


ヒューネ様も、苦い表情になった。


ヴァンブルの利権は、絶対に王家が入手しなければならないものだ。


殿下の要求を、女王が拒絶できるわけがない。


「……わかった」


しばらくしてから、女王がようやく言葉をしぼり出した。


「永世巫女の廃止については、撤回する。シャーロットを、永世巫女と認めよう」


「ありがとうございます、お母様!」


シャーロット殿下が、はしゃいで喜んだ。


にこやかな顔でこちらに目を向けてくる。


私もニッと微笑み返した。


二人でハイタッチしたい気分であった。


……さて。


お次は、私の番である。


「あの……発言をしてもよろしいでしょうか?」


「ん……ああ、構わんぞ。何じゃ?」


「有難うございます。実は、ルシェス様たちとの戦いの中で、私たちを襲撃したことに関する慰謝料を請求しました。これがその請求書です」


私は、テーブルの上に請求書を置く。


「この請求書には、ルシェス様の全財産を私に譲渡する旨が書かれています」


「……またか」


女王陛下は辟易したようにつぶやいた。


私は言った。


「私は、鑑定魔導具ダファルダムを求めています。どうか、ルシェス様の利権と、交換していただけないでしょうか」


この要求を断るわけにはいかない、と瞬時に理解したのだろう……


女王陛下は、私の要望通り、ダファルダムの交換を約束してくれた。





かくして。


私は、ダファルダムを無事に入手することができた。


シャーロット殿下も、永世巫女の座が認定された。


ドラル遺跡を解いてほしい、という殿下の依頼から始まった、一連の旅。


これにて無事に、終幕である。






第3章 永世巫女 


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