第3章131話:永世巫女の約束


衝撃と沈黙が蔓延する中……


シャーロット殿下が説明した。


「ルシェスは、わたくしが永世巫女になることを防ぐために、わたくしを拉致して洗脳せんと、襲撃を仕掛けてきたのですわ。イグーニドラシェルは、ルシェスに雇われた実行役の一人です。他にもルシェスは、6名ほど傭兵を雇っておりました」


さらに、一拍置いてから、続ける。


「イグーニドラシェルは、こちらのエリーヌさんとアリスティさんを殺害しようとしましたの。返り討ちにしたのはそれゆえですわ。あと、ヴァンブルについては、息子ルシェスの死を知ったことで、襲いかかってきました。こちらも、我々を殺害しようとなさいました」


「なんということじゃ……」


女王陛下は茫然自失といった様子でつぶやいた。


告げられた事実を受け止めきれないようだ。


ヒューネ様が命ずる。


「騎士の方々。三人の首が本物であるか、部下に調べさせてもらえませんか? ……まあ、本物だとは思いますが、念の為」


「御意!」


騎士の数名が応じる。


彼らは、三名の生首を持って、謁見の間を出て行った。


私は、ふと考える。


(ケルフォード親子が死んだことはともかく、イグーニドラシェルの死は、国にとっても打撃が大きすぎるよね)


英雄の喪失は、リズニス王国の武力を激減させてしまう。


それは国を傾かせる理由にもなりかねない。


(私はリズニス王国を破滅させたいわけじゃない。何かしらの補填をしてあげたほうがいいかな)


しかし……まあ、それは謁見が終わってからでいいだろう。


今は、するべき話に集中しないとね。


シャーロット殿下が言った。


「お母様。わたくしは、ドラル遺跡を攻略いたしましたわ」


その言葉に、女王陛下の顔が曇る。


殿下は続けた。


「つきましては、女王の名において、永世巫女に認定していただきたく存じますわ」


その言葉に対して、明らかに、女王は難色を示している。


認めたくないという雰囲気が全開だ。


まあ、祝福されないなんて、最初からわかっていたことだ。


と、


そのときだった。


「失礼ながら殿下。その件に関して、お伝えしたいことがあります」


口を挟んできたのはヒューネ様である。


ヒューネ様は、以下のように告げた。


「永世巫女の制度については、私どもの協議の末に、廃止することに致しました」


「っ!?」


「既に王国法を書き換え、永世巫女に関する記述は削除しております。この国には、もう、永世巫女という役職はありません」


これは……


はしご外しというやつだ。


なかなか卑劣な手だな。


けど、まあ、そうするよね。


シャーロット殿下が永世巫女になれないようにする、一番簡単な方法とは、永世巫女という制度そのものを失くしてしまうことなのだから。


――――ルシェスは死んだ。


当面、殿下の婚姻については保留となる。


しかし、殿下が永世巫女にさえなっていなければ、次の縁談の機会はあるだろう。


結局、国は、王女を逃がすつもりはないのだ。


ヒューネ様は言う。


「……姫様。私はあなたに恨まれても構いません。ですが、どうあっても、あなたを永世巫女にするわけにはいかないのです。ご理解いただけると幸いです」


「……」


シャーロット殿下がうつむく。


落ち込んでいる……わけではない。


笑っていた。


そして、それは私も同じ。


笑いをこらえるので精一杯だ。


だって。


こんなに予想通りとは思わなかったからね!


「永世巫女については、理解しましたわ。でも、納得はできません。撤回を要求したく存じますわ」


「撤回はできぬ。甘んじて受け入れよ」


女王が告げる。

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