第3章128話:王城


ケルフォード邸を出たあと。


キャンピングカーに乗って王都へと移動する途中。


夜。


食事が終わったあと、キャンピングカーのリビング。


テーブルに着いた私は、対面に座る殿下に尋ねる。


「そういえば、殿下」


「なんですの?」


「ルシェスが死んだということは、婚約者がいなくなったということですよね」


「そうですわね」


「じゃあ、永世巫女の件はどうするんですか。もう巫女にはならない感じですか?」


殿下が永世巫女になりたいと願ったのは、何よりルシェスとの婚約を破棄したかったからだろう。


あんな婚約者は、そりゃ嫌だろうし、王家に入れてはいけない人物だった。


――――しかし、ルシェスは死んだ。


ならば、永世巫女になる理由がなくなったように思うが……。


「いえ……永世巫女にはなりますわ」


殿下はそう答えた。


「永世巫女にならないと、また婚約をしなければならない時が来ますわ。わたくし、自身が望まない婚約はもう御免ですの」


「そうですか」


「それに……」


テーブルに着いた殿下が、窓外の景色を眺めながら言った。


「わたくし、やりたいことが見つかりましたの」


「……やりたいこと?」


「ええ。人生の目標……みたいなものですわ」


……やりたいこと。人生の目標。


その具体的な内容について、殿下は語らない。


殿下は、言った。


「だからわたくしは、もう迷いません。ためらうこともしません。必ず、永世巫女になりますわ」


殿下の目には、決意が満ちていた。


そうか。


吹っ切れたんだろうね。


いや、開き直ったのかな?


いずれにせよ、殿下はこれから、自分の思う道を、迷わず突き進むのだろう。


私はそれを陰ながら応援しようと思った。






数日後。


晴れ。


昼。


キャンピングカーに乗って王都へと帰還する。


シャーロット殿下の引率で、私たちは、王城へと訪れていた。


7階建ての巨大な王城。


1階のエントランスを抜けて、壮麗な廊下を歩き、階段をのぼって5階。


私たちは、女王陛下と謁見する。


「おもてを上げよ。立ってよいぞ」


謁見の間。


入り口より王座へと続く絨毯の上で、膝をついていた私、アリスティ、ユレイラさんは、ゆっくりと立ち上がった。


シャーロット殿下はユレイラさんの隣に立っている。




――――私たちの正面には、二人の女性がいた。




一人は、女王。


ベスティーヌ・ディ・グラスタ・フォン・リズニス。


まさしく王城の主であり、リズニス王国の君主。


髪はシャーロット殿下と同じ赤色。


ただしロングヘア。髪全体にウェーブがかかっており、凄まじいボリューム感だ。


目は黄金色であり、理知的な輝きを帯びている。


さらにサイズ感があるのは体格。


身長は2メートルほどの巨躯。


腕や肩幅などは、私の2倍ほどもあるのではないかと思える。


最強の女子バレーボール選手みたいな長身であり、驚くべき恵体である。


そのうえでドレスに身を包んでおり……


まさに国をまとめる女傑というオーラを放っている。





もう一人は、ヒューネ・フォン・ゼラー。


女王秘書、宰相の肩書きを持っている、女王の側近。


髪は茶色でカールがかったショートヘア。


目は紫色。


眼鏡が似合いそうな、きりっとした顔立ち。


こちらはやや小柄で、150~155センチぐらいの身長だと推定される。


タイトスカートとフリルブラウスといった身なりであり、落ち着いた雰囲気である。


女王ベスティーヌの名前は他国でも知られているが、ヒューネもまた、広く名が知られた存在だ。


いわく、リズニス王国の"頭脳"であると。





この二人の要人を中心として、脇に控えるのが六人の大臣だ。


左側に立つ大臣は三人とも男性。


右側に立つ大臣は三人とも女性。


全員が礼装に身を包んでいる。


さらに大臣たちの後ろには、騎士とおぼしき姿が20名ほど。


こちらも男女半々であった。


「突然の訪問、申し訳ありませんわ、お母様。どうしても報告したいことがありましたので」


シャーロット殿下がそう述べると、女王は問う。


「報告? なんじゃ、言ってみよ」


「はい。実は先日、こちらのエリーヌさん達のご協力によって、ドラルの宝物庫を開けることに成功したのでございますわ」


「……なんじゃと」


女王陛下が、驚いたように目を見開いた。

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