第3章127話:終幕


「貴様、貴様がやったのか!!? 私の可愛いルシェスをおおおおおおお!!?」


ヴァンブルが立ち上がって、激情を向けてきた。


私は冷静に答える。


「ええ……まあ。でも襲撃してきたのはルシェスさんのほうなので、私は自衛しただけですが」


「関係あるものか!! 貴様、よくもよくもよくも!! 八つ裂きにして、殺してやるッ!! いや、麻薬漬けにして、海外に売り飛ばしてやる!!」


おいおい……


とんでもないこと口走ってるよ、この人。


なるほどね。


麻薬取引。


人身売買。


このへんに関与しているってことか。


国の病理病根。


殿下の言葉に、納得する。


と。


そのとき、シャーロット殿下がぽつりと言った。


「請求書、二枚目を得られるチャンスですわね」


ふむ。


そうだね。


私も、ためらいが消えたよ。


ヴァンブルが言った。


「執事長! まずはヤツらの護衛を殺せ!!」


「は、はい!!」


ヴァンブルの命令に、執事長が応答する。


「他の執事やメイド、守衛たちも来い!! 執事長を援護するのだ!!」


ヴァンブルの怒号のような声を聞いて、周囲に屋敷の者たちが集まってきた。


全員が、そこそこの戦闘訓練を積んだ手練れのようだ。


私は言った。


「殿下たちは下がっていてください」


「ええ」


私とアリスティが前に出る。


ユレイラさんは殿下の護衛だ。


執事長がこちらに一歩、踏み出してくる。


彼は格闘の体勢に入り、構える。


私は思った。


(この程度の相手なら、音響兵器を使うまでもないね)


執事長が只者ではないというのは、見ればわかる。


しかし、アリスティの敵ではない。


「アリスティ……お願いします」


「かしこまりました。お嬢様は、お下がりください」


私はアリスティの後方に下がる。


執事長が、告げた。


「ケルフォード家に楯突いたこと、後悔しながら死になさい!」


執事長が、地を蹴る。


良い踏み込みだ。


あっという間に私たちへと距離を詰めてくる。


だが、立ちはだかったのは、最強の軍人メイドだ。


次の瞬間、【歩く攻城兵器】と呼ばれた超級のパンチが炸裂する。


「……!!!?」


強力な一撃が、執事長の顔面を襲った。


そのパンチの威力は、打撃という言葉の定義すら変わってしまいかねないほど。


異次元の攻撃力に見舞われた執事長は、声すらあげることもできず吹き飛ぶ。


彼の身体は、空中を滑空しながら縦に高速回転。


やがて地面をもんどり打ちながら庭の植木に突っ込んだ。


「なっ……!?」


ヴァンブルが驚愕する。


周囲に集まってきた者たちも、動くことを忘れ、しばし立ち尽くす。


執事長は、肉塊となって絶命していた。


部下の者たちが、口々に言う。


「あ、あぁ……執事長が……たった一撃で」


「執事長が、あたしたちの師匠が……」


「あんなバケモノ、勝てっこねえ……!」


眼前にいるメイドには、誰も敵わない――――


それを、この場にいる者すべてが、理解した。


シャーロット殿下は尋ねた。


「まだ刃向かう者はおられますかしら?」


誰も返事はしない。


全員が、戦意喪失していた。


シャーロット殿下が告げる。


「それでは、慰謝料の話をいたしましょう。王族に対する反逆罪、その他、さまざまな罪状がありますものね?」


ヴァンブルが、屈服したように崩れ落ちる。





―――かくして。


ルシェスは死に、ヴァンブルも死に。


ケルフォード家は崩壊した。


政財界の支柱をになっていたケルフォード親子の破滅。


この二人の死が、リズニスの貴族社会に激震をもたらすことは、言うまでもない。

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