第3章126話:ヴァンブル


執事長はさらに告げた。


「そのような無法をなされるなら、大旦那様に言いつけますぞ!?」


……大旦那様?


ヴァンブルのことかな?


殿下に尋ねる。


「あの……大旦那様とは?」


「ヴァンブルのことですわ」


やっぱりそうか。


執事長はなんとか笑みを浮かべて言う。


「そ、そうです。大旦那様は現在、屋敷に滞在中でいらっしゃいます! ただいまお呼びして参りましょう!」


そう勝手に告げて、きびすを返した。


ややあって、執事長とともに、やたらきらびやかな礼装に身を包んだ男性がやってきた。


これが経済大臣、ヴァンブルさんか。


「これはこれは王女殿下。おひさしゅうございます」


「ええ。久しぶりですわね、ヴァンブル」


挨拶をしてからヴァンブルが言った。


「それで……執事長から話は伺いましたが、この屋敷の所有権が殿下に移譲されたと? そうおっしゃっておられるのですか?」 


「移譲された相手はわたくしではなく、こちらのエリーヌさんに……ですわ」


ヴァンブルがちらっと私のほうを見つめてくる。


しかし興味なさげに、すぐに殿下へ視線を戻した。


「ふむ……まあ、どちらでも構いませんが、我が息子が死去したとおっしゃっておられるようですな? さすがにそれは、ご冗談にしては悪質ではありませんかな?」


「冗談ではありませんわ。ルシェスは死にました」


「……証拠もなく、ただ死んだとだけ告げられましてもな。にわかには信じられません」


ヴァンブルが肩をすくめながら告げる。


殿下がそのとき、私を振り返っていく。


「では、エリーヌさん。アレを」


アレとは、ルシェスの生首のことである。


殿下との打ち合わせでは、ヴァンブルの前でルシェスの生首を出すことを決めていた。


しかし、私は一瞬、ためらってしまう。


さすがに血も涙もない行為だと思ったからだ。


とはいえ。


ここまで来て、渋ったところでしょうがない。


どうせいずれは、ルシェスの死は知れ渡ることなのだから。


私は、ためらいを捨てた。


「アリスティ、アイテムバッグを」


「はい」


アリスティがアイテムバッグを手渡してきた。


このアイテムバッグには、ルシェスの首が入っている。


私はそれを取り出して、ヴァンブルの足元へ、静かに投げた。


「なっ……!!?」


ヴァンブルと執事長が驚愕した。


執事長が言う。


「ル、ルシェス様……!!?」


ヴァンブルは目を見開き、発狂した。


「あ……ああっ、ああああああっ!!? ルシェス、ルシェスがああああっ!!?」


ヴァンブルは膝をつき、息子の生首を抱きしめた。


さめざめと泣き始める。


シャーロット殿下が告げた。


「これで、冗談ではないと理解していただけましたかしら?」


その問いに、ヴァンブルが憎悪の視線を返した。


息子の首を涙ながらに抱きながら、憎しみの目で私たちを睨みつけてくる。

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