第3章125話:執事長


執事長は困惑したように尋ねた。


「こ、この方が屋敷の新しい所有者……? それに、ルシェス様が死去なされたと? あの……いったい何の冗談でございましょう?」


「冗談ではございませんわ」


シャーロット殿下は淡々と答える。


すると執事長は声を荒げた。


「エリーヌ殿と申しましたな? あなたは一体何者ですか!?」


水を向けられたので、私は応える。


「あー、えっと、私は、しがない錬金魔導師でございます。他国より観光で、リズニス王国に参りました」


「他国の……? なぜ他国の人間が、ルシェス様に代わって、屋敷の所有権を得られるのです? いくら殿下といえど、周囲を混乱させかねないご冗談は、如何かとは思いますが」


「だから、冗談ではありませんわ」


ふたたび、シャーロット殿下がそう言った。


私みたいな、どこの馬の骨とも知らぬ人間ではない……他ならぬ殿下の言葉。


執事長は明らかに取り乱す。


「も、申し訳ありませんが、話の筋が全く見えませぬ。いったいどういう事情なのか、ご説明いただいてもよろしいですか?」


その質問に、私が答える。


「えっとですね。ルシェス様が私たちを襲撃してきたので、返り討ちにしました。その際、襲撃してきたことへの慰謝料を要求し、請求書にサインをしていただいたのです。これがその請求書です」


私は、請求書をアイテムバッグから取り出して、提示した。


執事長はそんな請求書が存在することに驚きながら、眺める。


私は告げた。


「見ての通り、犯罪物以外の全財産を私に譲渡する、という約定です。なので、この屋敷の所有権は現在、私にあるということですね」


「ば、馬鹿な……こんな、こんな約定書、有り得ません! ウソを申すのも大概にしなさい!」


「シャーロット殿下が、そのような嘘をつくと? そもそも殿下も襲撃現場に居合わせ、拉致されそうになったのですが」


「なっ……! まさか、ルシェス様が、そこまで……」


なにやら意味深な言葉をぶつぶつと言い始めた執事長。


シャーロット殿下が目を細め、問いかけた。


「執事長? あなた、ルシェスの犯罪を知りつつ黙認……あるいは加担していましたわね?」


「……!!」


執事長がビクッと肩を震わせる。


それから取り繕ったように言った。


「さ、さて……何のことですかな」


「とぼけるんですの? まあ、屋敷を調べれば、いろいろ証拠も出てくると思いますが」


シャーロット殿下の言葉に、執事長が青ざめた。


「い、いかに王女殿下といえど、屋敷を勝手に調べるなど許されませぬ!!」


執事長は冷や汗を浮かべながら、声を荒げる。


明らかに、動揺している。


屋敷の中に、探られたくないものがあるのは明らかだった。

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