第3章120話:王女の提案


これで討伐は完了だ。


と。


ちょうどそのとき、森からアリスティが帰ってきた。


両手には、二つの生首。


「終わりました」


「ご苦労様です」


私はそうねぎらった。


ユレイラさんもルシェスを捕らえ、服を掴んで引きずってきていた。


「離せ、離せぇっ……!」


ルシェスが叫ぶ。


そんなルシェスを、ユレイラさんが無造作にぶん投げた。


「うがっ!?」


ルシェスがもんどり打って、地面を転がる。


既にユレイラさんは、ルシェスからアイテムバッグやアクセサリー類を取り上げたようで、それらを王女殿下に手渡す。


もはや戦う道具も、味方も、完全に失ったルシェスに、抵抗する術はない。


彼は、転がった状態から身体を起こすものの、立ち上がろうとはしなかった。


「くっ……僕が……どうして……こんな、こんなはずじゃ……っ」


座り込んだまま、ぼろぼろと泣き始める。


私はいったんルシェスから視線を外して、述べた。


「……アリスティ、一応、傭兵たちの死亡確認がしたいので、協力してください」


「承知しました」


傭兵たちには致命傷を浴びせたはずだが、絶対死んだとは言い切れない。


念の為に、倒した傭兵の首を全てハネておくことにした。


これで、うっかり殺し損ねていた可能性は、万に一つもなくなった。


その作業が済んで戻ってきたとき、ルシェスは泣きやんでいた。


座り込んだまま、放心したようにうつむいている。


「……」


うーん……


ここから、どうしようか?


やはり、殺してしまうのが無難かな。


こういうやつを突き出したって、たぶん意味はない。


どうせ根回しされて、無罪放免になるに決まってる。


殺せるうちに殺しておくのが最良だろう。


私はアイテムバッグから、静かに剣を取り出した。


そのとき。


「お待ちくださいまし」


シャーロット殿下が止めてきた。


彼女は言った。


「せっかくですし、慰謝料を請求してはいかがでしょう?」


「慰謝料?」


私が首をかしげると、殿下が説明する。


「はい。エリーヌさんを殺そうとした殺人未遂の慰謝料として、ルシェスには全財産を、エリーヌさんに支払ってもらいます。ただ、全財産といっても麻薬などの犯罪物は除外するものとします」


「なっ……ぜ、全財産、だと……!? ふざけるな!!」


座り込んでいたルシェスが、立ち上がり、顔を真っ赤にして怒り出した。


私は殿下に尋ねる。


「あの、私は特にルシェスの財産なんて欲しくはないのですが……何か目的があるのですか?」


「はい。ですので、ここはわたくしに任せてください」


……そうか。


ならば口を出すまい。


シャーロット殿下のしたいようにさせることにしよう。


私は剣をアイテムバッグへ納める。


殿下は言った。


「それでは……ルシェス? 慰謝料に関する書類を用意するので、サインをしていただきましょうか」


「ふざけるなと言っている! そんな書類にサインなんてするものか! 僕はここを動かないぞ!! 慰謝料が欲しいなら、法廷を通せ!」


「……どうせ法廷だって、あなたの息がかかった裁判官がいるのでしょう? そんな不公平な裁判など、やるだけ時間の無駄ではありませんの」


「知ったことか!」


ルシェスが拒絶する。


シャーロット殿下がユレイラさんに示唆した。


「ユレイラ」


「はい」


ユレイラさんは、ルシェスに向かって歩き始める。


ルシェスはビビッたように一歩後ずさる。


「な、何をする気だ……ぐはっ!!?」


ユレイラさんがルシェスに近づくなり、腹に拳を叩き込んだ。


さらにルシェスの髪をつかんでから、地面へと引き倒した。


「うぐぁっ!!?」


倒れたルシェスをユレイラさんが蹴り飛ばす。


踏みつける。


蹴る。


踏みつける。


服を掴んで起き上がらせ、ふたたび殴りつける。


「ぐっ、ごはっ、がっ、あがっ、くっ、がぁあっ!!?」


連続する暴力に、ルシェスがもだえ苦しむ。


ユレイラさんは近衛隊長だ。


イグーニドラシェルほどではないのかもしれないが、彼女もまた、一流の軍人である。


そんなユレイラさんの殴打をまともに受け続けるのは、相当キツイだろう。


ルシェスは、あっという間にズタボロになっていった。





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