第3章118話:アリスティの攻撃


アリスティは、手に持っていた剣を、アイテムバッグへ収納した。


徒手空拳の状態になる。


デミラが怪訝そうに尋ねる。


「おいおい、剣は使わねえのかよ?」


「コレが私のスタイルです。さきほど剣を使ったのは、首をハネるのに適していたからに過ぎません」


「ふーん、なるほどね。拳が主体のファイター……つまり、あたしと同じってことかよ。なら、あたしが勝ったら、その道の最強はあたしってことでいいな」


ガントレットの拳骨同士を、ガンッと打ち合わせるデミラ。


彼女は不敵に笑い、宣言した。


「じゃあ、いくぜええ!!」


足元の地面を爆発させるような勢いで、デミラが大地を蹴った。


アリスティに向かって滑空する。


先手を取った形。


しかも速い。


アリスティは守りに入るしかない――――と思いきや。


「……!?」


アリスティが、地を軽く蹴って間合いを詰める。


その初動で、完全にデミラのタイミングが崩された。


私は感心する。


(さすがアリスティですね)


地を蹴って前進した、5メートルほどを詰める一歩の動き。


アリスティは、たったその一歩で、先手だったはずの相手を、後手へと追いやってしまった。


まさに達人の初動である。


これは才能というよりは、経験と技術のなせる業だ。


アリスティは、数多の戦場で、幾千・幾万の敵兵と交戦してきた。


その中で磨かれた戦闘経験が、アリスティの完璧な踏み込みを可能にしているのだ。


――――デミラは、完全に間合いを狂わされた。


しかし、彼女は優秀だった。


さすがAAランクと名乗るだけあって、これ以上踏み込んだらまずいと素早く理解。


立て直しも早く、一歩下がって体勢を戻そうとする。


そこに追いすがるアリスティ。


退かんとするデミラに追いつき、アリスティが拳を繰り出す。


デミラは、アリスティの拳の軌道を読みきっていた。


完全な防御姿勢を取る。


両腕をクロスし、アリスティの拳を迎えようとする。


――――だが、デミラの行動は失敗だった。


彼女はここで防御を選択するべきではなかったのだ。


(あぁ、アリスティの攻撃を防ごうとするなんて……あの傭兵、終わりましたね)


私は内心、そう予想した。


そして、その予想は的中する。


――――アリスティの攻撃。


繰り出されたパンチは、果たして打撃といえただろうか?


デミラは防御結界を三重にも張っていた。


腕をクロスさせて完全防御の体制をとっていた。


しかし……それらの一切が無意味だった。


アリスティのパンチは、デミラの防御結界をたやすく破壊。


さらにガードしたデミラの腕に直撃し、その両腕を骨折させ――――


それでも留まらない衝撃が、デミラの肋骨と背骨を粉砕した。


そしてぶん殴られた彼女は、まるで弾丸のような速さで吹っ飛んでいき――――


やがて樹木に激突。


木々をなぎ倒して、ようやく止まった。


まるで、巨人のハンマーで殴りつけられたかのような、異常な吹っ飛び方であった。


「あ、あぁ……っ」


その場にいた誰もが、有り得ざる拳の威力を目の当たりにして、絶句していた。


敵の防御などお構いなしに攻撃し、粉砕し、打倒する。


これぞアリスティ。


これぞ【歩く攻城兵器】。


素手の一撃で城門さえも破壊する、一騎当千のメイドであった。

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