第3章117話:一騎打ち
「だ、黙って聞いていれば! 調子に乗るなよ、錬金魔導師! 確かにイグーニドラシェルが負けたことは驚いたが、僕にはまだ6人の護衛がいることを忘れるな!?」
「ほう。力で脅すつもりですか?」
「ああそうだとも! 簡単なことだ。君を殺して、英雄の持ち物を取り返せばいいだけだ! 殺したあとで、君こそが国家反逆者であったと工作し、吹聴してやる。それができる権力もツテも、僕にはあるんだからな!」
そういう手に出るのか。
なら、もう容赦はしない。
一切の命乞いには耳を貸さず、完全に滅殺してやろう。
「おい、傭兵ども! 仕事だぞ! まずはアリスティ・フレアローズを始末しろ!」
ルシェスの言葉に呼応して、彼の背後に控えていた護衛6人が、前に出てくる。
「この者たちは、僕の選りすぐりの6人だ。Aランク傭兵5名、AAランク傭兵1名。皆、イグーニドラシェルに次ぐ実力者だ。たとえアリスティ・フレアローズがそちらにいようと、形勢はこちらが有利だ!」
「その通りさ!」
そう告げて、意気揚々と前に一歩踏み出した女。
ガントレットを両手につけたファイターである。
「あたしはAAランクの女傭兵、デミラだ」
そう名乗った彼女は、続けて語る。
「あたしはSランクも目前だったが、なかなか昇級する機会に恵まれないでいた。だが、やっとビッグチャンスがめぐってきたぜ。アリスティ・フレアローズ! 六傑の一人であるテメエを殺せば、あたしのSランク昇級は間違いなしだ!」
まあ、本来なら昇級の前に、牢屋行きになりそうな事態だが……。
傭兵は特殊だからね。
たとえ王族を襲撃しても、国外逃亡すれば、全てうやむやになるし、腕が立つなら次の仕事はある。
傭兵とはそういう仕事だ。
「あたしと一騎打ちをしろ、アリスティ!」
デミラが言う。
アリスティは困惑した。
「……一騎打ち、ですか?」
「ああ、そうさ! あたしがテメエをぶっ殺してやるぜ!」
「……そうですか」
アリスティも予想していなかった提案に違いない。
私も困惑している。
アリスティと一騎打ち?
このデミラって人、馬鹿なのだろうか?
……と、そのとき。
ルシェスがキレた。
「な、何を言ってる!! 一騎打ちなんて馬鹿げたことを言うな! 全員で囲んで袋叩きにしろ!」
正論である。
全くもって正しい指示であり、私が逆の立場でも同じことを言うと思うが……
せっかくなので、ルシェスの言葉に横槍を入れることにした。
私は叫ぶ。
「黙りなさいルシェス!」
「!!?」
「六傑を相手に一騎打ちを申し出た、デミラさんの覚悟を買うべきです。あなたは戦士の想いを踏みにじるおつもりですか?」
ルシェスは困惑顔になった。
しかし、すぐに私を睨みつけてくる。
「こ、心にもないことを言うな!! 一騎打ちのほうが、そちらにとって都合が良いだけだろ!?」
バレてる……!
ルシェスは続けた。
「いいかデミラ!? 既にイグーニドラシェルが死んだ、相手は強敵だ! もう油断は許されない。勝つために最善の戦法を取るべき――――」
「ごちゃごちゃうるせーんだよルシェス!!」
と、デミラが怒号を飛ばした。
ルシェスがびくっと震え上がる。
「あたしが一騎打ちっつったら一騎打ちなんだよ!」
さらにデミラは他の傭兵たちにも叫びちらした。
「おい、テメエらもだ。絶対手出しすんなよ!? 水を差すやつは殺す!」
傭兵たちは静かにうなずく。
アリスティは言った。
「わかりました。その一騎打ち、引き受けましょう」
「おう。感謝するぜ」
デミラが笑う。
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