第3章116話:ルシェスの怒り


「さすがはリズニスの英雄ですね。すぐに意識が飛んでいなかったところを見ると、私の攻撃を、多少は防げていたようですし」


今のところ、音響兵器の攻撃を食らっても持ちこたえたのは、フレッドとイグーニドラシェルだけだ。


「アリスティには助けられました。タイミングよく動いてくれて、ありがとうございます」


「いいえ。イグーニドラシェルをこれほどラクに葬ることができたのは、お嬢様のお力があってのことですから」


私とアリスティが微笑みあう。


シャーロット殿下とユレイラさんが驚いたように言う。


「本当に、倒してしまいましたわ……」


「まさか……あのイグーニドラシェルを……」


私は言った。


「イグーニドラシェルの持ってる装備、かなり良さそうですね。アイテムバッグも高級そうです。戦利品として、根こそぎ貰っていきましょうか。あとで山分けしましょう、アリスティ」


「はい」


そのとき怒号が飛ぶ。


「ば、馬鹿な! ふざけるな!」


ルシェスである。


ずっと放心していたが、ようやく我に返ったようだ。


彼は言った。


「き、君たちは、自分が何をしたかわかっているのか!? イグーニドラシェルは、我が国の英雄だぞ!? 彼女はリズニス王国を幾度となく守ってきた! それが死んだなんてことになったら……この国がどうなると思っている!?」


さすが戯言のプロ。


キレッキレの戯言である。


私は肩をすくめながら言った。


「あなた……知性がニワトリなんですか? そもそも襲撃してきたのはそちらですし、どう見たって、私たちの正当防衛じゃないですか? それともなんですか、黙って殺されてりゃ良かったと?」


「そ、それは……」


「甘ったれたこと言わないでくださいよ。私は今でこそ錬金魔導師ですが、元は軍人なんです。軍人が戦場に立てば、殺るか殺られるか。それはアリスティもわかっていますし、イグーニドラシェルさんも理解していたはずですよ」


「し、しかし戦利品はダメだ! イグーニドラシェルの持ち物の多くは、彼女の財産ではあるが、国の財産でもある! 過去の英雄から引き継いだものもある! 君が持っていくのは略奪だろう!」


「いいえ、正当な権利ですね!」


私は堂々と言い張る。


そしてどう正当なのか、説明した。


「なぜなら、イグーニドラシェルさんは、あなたに雇われて、王族であるシャーロット殿下を拉致監禁・洗脳しようとしていました。これは国家反逆罪に当たりますよね?」


「ぐっ……それは」


「つまりイグーニドラシェルさんは法的に言えば、賊なんですよ。あなたに雇われて大罪を成した悪党ってことですからね。そして……賊を倒した場合の戦利品は、誰のものになるんでしたっけ?」


言わずもがな。


賊を倒した場合、その戦利品は、討伐者のものになる。


これはどの国でも基本的に同じだ。


もちろん、リズニス王国でも……だ。


「なので、イグーニドラシェルさんの持ち物は全て、私とアリスティの所有物ということです。欲しければあなたが買い取るべきで、買わずに持っていこうとしたら、あなたのほうが略奪になりますよ?」


「く、くそっ……」


タダで英雄のアイテムを全てゲットできるなんて、ラッキーである。


私は内心、ほくそ笑んだ。

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