第3章115話:連携


「今回のは物理ではなく魔法ですし、分類としては光魔法の一種になるんでしょうね……名付けて、レーザー魔法といっておきましょうか」


レーザーの本質は光である。


そして、そこから生じる熱。


ゆえにレーザーをレジストするには、光と熱の対策をすればよい。


原理的に考えると、光さえ遮断すれば、熱も発生しないと思われるが……


不安なので熱対策も念頭に置いておく。


以上のことを踏まえたうえで、防御結界を構築すれば。


レーザーを無効化する結界を張ることができた。


「馬鹿みたいに実演するから、タネがバレるんですよ」


さきほど、鹿の魔物を消滅させたときに、私はレーザーではないかと即座に疑った。


魔法陣を解析した結果、その推測が正解だと断定できた。


ゆえに対処法を構築することができたのだ。


(とはいえ、確かに、元地球人である私以外には理解できない攻撃だろうけどね)


異世界ではレーザーなんて存在自体知られていない。


ゆえに、誰にも防ぎ方がわからない。


だからイグーニドラシェルも、得意げに魔法を実演してみせたのだろう。


行使している本人ですら理解できない魔法。


見破られるとは思っていなかったに違いない。


(レーザー攻撃で、しかも魔力量の多いイグーニドラシェルの魔法。アリスティぐらい強ければ耐えられるだろうけど……)


それがレーザーだとわからなくたって、光による攻撃であることは想像できるので、無効化は無理でも、ダメージの減殺ぐらいはできよう。


しかし、減殺してもイグーニドラシェルの魔法は高威力。


大抵の人間なら、一撃で消滅させられるに違いない。


「あー、レーザーについての説明は面倒なので、割愛させてもらいますね」


私はそう告げた。


異世界人にレーザーについて解説するのは大変だ。


いちいち原理や詳細について、説明するつもりはなかった。


イグーニドラシェルが問いかけてくる。


「光魔法を無効化するなど……誰も成し得たことはない! 貴様は……何者だ!?」


「ただの錬金魔導師ですよ」


私は端的にそう答える。


「おしゃべりはこれぐらいにしましょうか。……そろそろ死んでもらいますね」


長く会話を続ける気はなかった。


レーザー攻撃は無効化できるが……


イグーニドラシェルの手札がそれだけだとは思わない。


他の魔法を使われると防げない可能性もあるだろう。


さっさと決着をつけるに限る。


私は……


今度こそ、音響指輪のスイッチを押した。


次の瞬間。


「―――――!!?」


キュイイイイイインッ……!


と、音響指輪がハウリングのような音を奏でた。


全方位の照射ではなく、狙った敵だけに音波が飛んでいく単方位。


指輪から放たれた音波は、空気を振動させながらイグーニドラシェルに飛来していった。


「ぬっ……!?」


音波は目に見えるものではない。


しかし、イグーニドラシェルは何らかの攻撃が放たれたと察して、ただちに防御結界を展開した。


さすがはリズニスの英雄。


判断の速さは、フレッドにも劣らないだろう。


だが、兄上がそうであったように、イグーニドラシェルもまた、原理を知らない攻撃を防ぐことなんて出来はしない。


音波攻撃は、展開された結界をすりぬけて、イグーニドラシェルに直撃した。


「……かはっ!?」


イグーニドラシェルの耳から血が噴き出す。


だが、白目をむいてはいない。


ぎりぎり意識は失わずに耐えている。


どうやら防御結界によってダメージを減殺することに成功したようだ。


強者としての意地を見せたか。


しかし――――彼女の人生はそこまでだった。


次の瞬間。


イグーニドラシェルの首が飛ぶ。


首をハネ飛ばしたのは、アリスティであった。


私が音波攻撃を仕掛けたとほぼ同時――――


アリスティはアイテムバッグから剣を取り出して、イグーニドラシェルに疾駆していた。


だからこれほど早く、イグーニドラシェルに迫り、その首をハネることに成功したのだ。


(ナイス、アリスティ)


私はそう心の中でつぶやく。


「なっ……イグーニドラシェル!?」


ルシェスが驚愕していた。


いや、ルシェスだけではない。


その場にいた全員が、あまりの展開に絶句していた。


だが、無理もないだろう。


こんなにあっさりと、


呆気なく、


リズニスの大英雄が血に沈むなど、誰が予想しただろうか?


私とアリスティの連携は、まさしく電光石火。


瞬きをするほんの一瞬の合間に、英雄イグーニドラシェルの命を刈り取った。


彼女の死体と首は、草原の上にむなしく転がっている。


足元の大魔法陣も消失していく。


場を支配するのは放心と驚愕。


誰もが、眼前で起こった出来事を信じられず、目を疑っていた。


そんな中、私は告げた。


「さて、これで形勢逆転ですね?」

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