第3章114話:イグーニドラシェルの魔法


私は、音響兵器のスイッチを押そうとしたが――――


「……!!?」


その瞬間。


ふいに、足元から光が爆発した。


それはさきほど鹿の魔物を襲ったものと同じ。


イグーニドラシェルが、私に向かって、攻撃魔法を発動したのだ。


光の柱が、私をあっという間に包み込む。


「お嬢様!!?」


私の視界が真っ白になる中、アリスティの叫ぶ声がした。


「クハハハッ、愚か者め!」


イグーニドラシェルが笑って、言った。


「言っただろう……見え透いていると。この私が、貴様の指輪を警戒しないとでも思ったか? 戦場において、敵のアクセサリーに注意を払うのは当然だろう?」


イグーニドラシェルが高笑いをする。


シャーロット殿下とユレイラさんが、呆然とした言葉を述べた。


「あぁ……そんな……」


「エリーヌ殿……ッ」


ルシェスは、命令を無視したイグーニドラシェルに、呆れたようにため息をつく。


「はぁ……結局やってしまったか」


そんなルシェスの愚痴も意に介さず、イグーニドラシェルが言った。


「これで一人脱落だな?」


そして気分良く、私たちをあざ笑う。


「はははは! 口だけは偉そうにしていたが、絵に描いたような雑魚だったな!! なあ、アリスティ? エリーヌは貴様の主だったのだろう? 自分の仕える主人が、呆気なく消し炭になった気分はどうだ!? 結局、私に勝てる者など―――――」


「あなた、なんで勝ち誇ってるんですか?」


イグーニドラシェルの言葉をさえぎるように。


私は光の中から、そう告げた。


「――――!!?」


「消し炭になってないし、痛くもかゆくもないんですけど……? こんなショボイ魔法で、私を殺すのは無理ですよ?」


私は光の支柱から、悠々と歩いて脱出する。


たったいま告げたように、ダメージを一切受けておらず、ピンピンしている。


イグーニドラシェルが驚愕した。


「ば、馬鹿な!? 無傷だと!?」


信じられないといった面持ちのイグーニドラシェル。


いや、その場にいた全員が、目を見開いている。


有り得ないイレギュラーを見るような目であった。


「お嬢様っ!!」


アリスティが、安堵の声をあげた。


私は説明した。


「解析が終わったので、イグーニドラシェルさんの魔法は無効化させていただきました」


イグーニドラシェルが愕然として、言い返してくる。


「解析……だと!? 有り得ない! 私の魔法は、私自身ですら、完全には理解できていない代物だぞ!? 無効化できるわけがないだろう!」


自分でも理解できていないのか。


そりゃそうだろう、と私は思った。


だって、この魔法は……


「レーザー光線。それがあなたの魔法の正体です」


「れ、れーざー光線……?」


レーザー光線。


つまり光を浴びせる放射攻撃。


イグーニドラシェルは、魔法陣の中ならどこでもレーザー光で、相手を照射することができる。


まるで敵がいる位置に、光の墓標を打ち立てるようなイメージで。


地面から垂直に向かってレーザービームを放つ。


攻撃を受けた者は、レーザー熱によって、肉も骨も一瞬で焼き尽くされる。


それが彼女の魔法である。

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