第3章111話:説得?


ルシェスが言った。


「さて、シャーロット。君は僕と一緒に来てもらおうか。なに、痛いことはしないさ。ほんの1ヶ月ほど、幽閉生活を送ってもらうだけだよ」


「……その幽閉生活の中で、わたくしを洗脳しようと言うんですの?」


「ああそうとも。これから僕の都合の良いくぐつとなってもらわないと困るからね。今回みたく、結婚から逃げようなどと思われたら面倒だ。だから君には、入念な洗脳を施させてもらう」


「絶対に屈しませんわ! わたくしは、リズニス王国の第一王女ですわよ! 簡単にわたくしの意思を捻じ曲げられると思わないことですわね!」


「ははは。王女としての責任を放棄しようとしているくせに、よく言うね」


「くっ……お黙りなさい!」


シャーロット殿下が感情的になって叫んだ。


ルシェスはほくそ笑む。


「君はわがままを言っているだけだ。永世巫女になったら、王位継承権を剥奪されるだろう。そうなったら、君についてきた【第一王女派】の者たちはどうなる? 背負う覚悟もない人間が上に立つと、下の者が難儀するね」


似たようなことは、ダルネア公爵にも言われていた。


シャーロット殿下も、わがままを言っている自覚があるのだろう、悔しそうな顔をしている。


ルシェスは嫌味な笑みを浮かべて続けた。


「君は、王女としての自覚がないんだよ。王族の政略結婚なんて、多かれ少なかれこんなものだろう。好きでもない相手と結婚し、子孫を残す。当然のことじゃないか? 僕は少なくとも、良家の生まれとして、それを果たそうとしている。君みたいに、己の責任からは逃げたりはしていない!」


……なんだろう。


偉そうに言っているけど、このひと犯罪者だよね?


犯罪者が他人に説教するなんて、滑稽に見えるのは私だけだろうか。


「だから僕が、君をまともな道に戻してやろうと言ってるんだよ。洗脳は荒療治だが、きっと女王陛下も、結婚を受け入れた君を見ればお喜びになるだろう!」


「お母様……」


「そうだ。君は、自分の母君を悲しませるつもりかい?」


シャーロット殿下がうつむいてしまう。


たたみかけるようにルシェスが言った。


「安心するといい。僕はひどい人間かもしれないが、責任から逃げるつもりはない。王配になった暁には、僕が営んでいる闇事業だって足を洗おう。約束する。正直に言うと、僕は君を女性として愛するつもりはない……だが、国政については、責任をもって行うつもりだから」


ルシェスの言葉に、シャーロット殿下の顔が曇っていく。


殿下は……


やはり、王女の責任から逃げることに、罪悪感を覚えているのだ。


ルシェスの述べたことと、似たようなことを、ダルネア公爵も述べていた。


王族に生まれた以上、逃れられない責務がある。


それを放棄したって、誰も祝福はしない。


茨の道であると。


殿下は、それを承知の上で、永世巫女になることを望んだ。


望んだ……はずだった。


だが、心が揺らいでしまっている。


ルシェスの言葉は、いろいろツッコミどころはあるとはいえ、内容の半分ぐらいは正論であるからだ。


(まあ、半分は正論だけど、もう半分は戯言なんだけどね)


王族の責任うんぬんは正論だが……


洗脳する、とか言ってる時点で論外である。


ついでに、犯罪者が他人にゴチャゴチャと説教するものではない。


まずお前は牢屋にいけ……という感想しか出てこないだろう。

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