第3章110話:高まる戦意


イグーニドラシェルは、相当厄介な魔法使いのようだ。


国の英雄と呼ばれるだけあるな。


でも、そうすると疑問がある。


ユレイラさんが、その疑問を代弁してくれた。


「しかし……解せませんね。なぜあなたほどの人が、ルシェスの味方をするのですか?」


「私には私の野望がある、というだけのことだ。その野望のために、ルシェスに付くことにしたのだよ」


イグーニドラシェルがそう答えた。


さらに続けた。


「さきほどルシェスが言ったが、シャーロット殿下は殺さない。私が殺せと依頼を受けているのは、アリスティ・エリーヌの二人だけだ」


……は?


な、なぜ私たちを?


私の疑問に対して、ルシェスが説明した。


「【予感】があったからさ。僕にはね、自分にとって利益になるか、不利益になるかを、【予感】という形で事前に知ることができる能力があるんだ」


私は尋ねる。


「つ、つまり予知能力のようなものがあると?」


「予知……というほど正確ではないね。そもそも予知能力なんてものは実在するのかな?」


ルシェスが一拍置いてから続ける。


「未来は無数に枝分かれしていて、不確定である……というのが精霊のお告げだ。だとするなら、予知能力とは、未来の枝の一本か二本を予見しているだけなんだろう。そんなものは予知とはいえない、可能性の一つを提示しているだけさ」


へえ、そうなんだ。


思いがけず、良い事を聞いた気分だ。


世界の未来は最初から決まっていて、全ては予定調和なのだ――――


悩み抜いた選択や決断も、全て最初から予定されていたことだ――――


なんていわれたら、萎えるしね。


私の意志次第で、未来のあり方が変わるからこそ、人生は面白いのだ。


「僕ができるのは、予知ではなく予感することだけだ。そして、エリーヌさん。君はかつて視たことがないほど、不吉な予感がただよっているんだ。だから、ここで君には死んでいただくしかないんだよ」


私は尋ねる。


「それは、どうあっても……ですか?」


「どうあっても、だ。僕は君を殺す」


……そうか。


ありがとう。


そこまでハッキリと敵意を向けられたら、私も覚悟が決まったよ。


ルシェス様――――いや、ルシェス。


私はあなたを抹殺する。


兄上のようにね。


「おっと、動くなよ」


私が殺意をまとったのを感じたのか、イグーニドラシェルが制止してきた。


「服の懐や、アイテムバッグなどに手を伸ばそうとしたら、容赦なく魔法を叩き込む。貴様ごときが、私の攻撃を防げると思うな」


さて……どうだろう?


実は、私は、少しずつこの魔法陣についての解析を行っている。


おおよそどういう魔法なのかを特定し、理解し……


この魔法を防ぐための『防御結界』を、頭の中で想定するのだ。


私の理論が正しければ、いま攻撃を食らっても、2、3発ぐらいなら死なずに耐えられるはずだ。


「貴様は手をあげていろ。アリスティ、ユレイラもだ。おかしな動きをしたらすぐに殺す」


「くっ……」


「……」


ユレイラさんが歯噛みし、アリスティは険しい表情を浮かべながら、言われた通り、両手を挙げる。


まあ、今の段階では従っておいたほうが無難かな……


私も、両手をあげた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る