第3章100話:暗号考察


私はぽつりと口にした。


「銀、プラチナ、それに鉄ですか……」


すると、シャーロット殿下が言った。


「やはり、そこに着目しますわよね」


ユレイラさんが言葉を引き継ぐ。


「私たちは、この暗号文は、何かを作るための錬金素材を示しているのだと考えています」


「なるほど。有り得そうな話ですね」


私は肯定する。


錬金魔導師ドラル・サヴローヴェンが残した暗号文だ。


何らかのアイテムの素材を示している、と考えるのは、そう的外れな推理だとは思わない。


「しかし、」


と、ユレイラさんは前置きしてから述べた。


「ここに書かれている素材を集めて、錬金魔導師に錬成を行わせてみたのですが……全て失敗に終わりました」


「上手くいかなかったのですか」


「はい。素材の個数や配合量を間違えているのかと考え、いろんなパターンを試させたのですが、やはり成功しませんでした」


なるほど。


つまり、素材を示しているわけではないのかもしれないと。


「ふむ……」


私は黙考する。


そして、もう一度、暗号文を眺めた。


『獣骨・水銀・銀・鉛・プラチナ・呼吸で得るもの・鉄・獣骨』


一見して、やはり素材を示唆しているように見えるのだが、2つ、違和感がある。


――――1つは『獣骨』という単語が二回出てきていることだ。


単に素材を書いているだけなら、なぜ二回も書く必要があったのか?


獣骨が二個必要だ、という意味なのだろうか?


――――もう1つは『呼吸で得るもの』という文言。


どちらかといえば、この言葉のほうが遥かに重大だ。


私は思う。


(これってもしかして、酸素のことを指している?)


酸素という概念は、まだ異世界では発見されていない。


なので、もしこれが酸素に対する言及なのだとしたら、世界的発見になるだろう。


あるいは……


ドラル・サヴローヴェンが、転生者だったという説も浮上する。


まあ、まだ断定はできないけど。


私は尋ねた。


「入力欄は15桁ですが、15文字いっぱい使い切らないとダメな感じですか?」


「そのようですわね」


シャーロット殿下が肯定した。


つまり、暗号の答えは「15文字」になるのか。


そんな長い単語が存在するか?


うーん……


やっぱり、単語じゃない。


私は思う。


(元素記号じゃないかな、これ?)


まず、暗号文にある、




『獣骨・水銀・銀・鉛・プラチナ・呼吸で得るもの・鉄・獣骨』




については、




『カルシウム・水銀・銀・鉛・プラチナ・酸素・鉄・カルシウム』




と、変換できる。


これを元素記号に置き換えると、




Ca、Hg、Ag、Pb、Pt、O、Fe、Ca




となり、ちょうど15文字となる。


(いや、もうこれ正解じゃない?)


私はさっそく文字を打ち込んでみた。


……


……あれ?


文字を打ち込んだけど、何も起こらない。


ユレイラさんが言う。


「外れのようですね」


書いた文字が、消えていく。


そうか、元素記号じゃないのか。


だったら……番号のほうはどうだろう?


暗号文に書かれた元素の原子番号は、




20、80、47、82、78、8、26、20




となる。


これもやはり文字数は15桁だ。


私は、以上の番号を打ち込んでみた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る